海外赴任の準備

共働き世帯の駐在同行「する?しない?」迷ったときの判断軸~“正解探し”ではなく“納得解”を見つけるために~

配偶者に海外赴任の辞令が出たとき、真っ先に浮かぶのは期待よりも戸惑いかもしれません。

「一緒に行くべき?」
「私の仕事はどうする?」
「子どもは?自分たちの親のことは?」

かつては、海外赴任の辞令が出たとなれば「駐在員の家族は同行するのが当たり前」という風潮がありました。しかし共働き世帯が一般的となった現代において、海外赴任は「家族のイベント」であると同時に、「お互いのキャリアと人生をかけた大きな決断」となっています。この決断に、唯一の正解、というものはありません。同行する、日本に残って仕事を続ける、あるいは赴任自体を辞退する。どの選択も、その家族が出した結論であれば間違いではありません。大切なのは、周囲の目や一般論ではなく、「自分たちにとっての納得解」を見つけることです。そしてそこには、各家庭が決断をする時の指標となる「軸」があるのです。今回は、駐在員パートナーのキャリア支援を行う非営利団体、Career Cafe Connect(以下CCC)スタッフであり、元人事担当でパートナーの駐在に同行中の浅野藤子が、「どんな選択をしたらよいか」という迷いの中にいる皆さんが立ち止まって考えたい5つの「判断軸」についてお伝えしていきます。

① 自分のキャリアをどう捉えるか

最初に向き合いたいのは、自分自身のキャリア観です。

 

・今の仕事は、数年離れても再挑戦できるものか

・今このタイミングだからこそ、仕事から得られる成果や機会があるか

・そもそも今の仕事は、自分にとって「生活の糧」か、それとも「自己実現の核」か

 

前回の記事(駐在同行とキャリアの考え方)でも触れましたが、キャリアは一直線でなくてもいい。しかし、「いったん離れても自分は納得できるか?」は大事な問いです。一方で、海外生活は貴重な経験でもあります。日本人の中で海外生活を経験する人は決して多数派ではありません。外務省のデータなどによると、海外に暮らす日本人は129万8170人(2025年10月1日時点)で、日本人人口の約1%にすぎず、海外で暮らすということ自体が希少なキャリアのひとつです。語学、異文化理解、人脈形成。目に見えにくいけれど、長い人生において確実に自分の厚みになる時間です。キャリアを「職歴」だけで測るのか、それとも「経験の総量」で考えるのか。ここが一つ目の判断軸です。

 

② 家族として何を優先したいか

次に考えたいのは、家族単位での価値観です。

 

・夫婦の関係性をどう保ちたいか

・子どもにどんな環境を経験させたいか

・単身赴任で家族の生活の質はどう変わるか

 

さまざまな理由で単身赴任を選ぶ場合もあるでしょう。単身赴任は両者がキャリアを継続できる合理的な選択だと考えられる面もあります。しかし、残る側にとってはワンオペ育児や家事の負担が集中し、精神的な余裕を失いやすいのも事実です。一方で、単身で渡航する側も決して楽ではありません。慣れない環境の中で仕事の成果を求められ、言葉や文化の壁に向き合いながら、家族の支えがそばにない生活を送ることになります。孤独やストレスを抱え込みやすい状況に置かれるケースも少なくありません。「何が効率的か」ではなく、「私たちはどんな毎日を過ごしたいのか」。夫婦での対話の濃度によって、精神的な納得の程度は大きく異なるでしょう。

 

③ 制度と選択肢を正確に把握しているか

感情や思考の整理と同時に、客観的な「事実」も整理しましょう。現状の制度に対する認識不足、理解不足が要因となって「退職か、(単身赴任を選択して)働き続けるか」の2択に陥ってしまう場合もあります。

 

・今の会社に、駐在同行に関して利用できる休職制度はあるか

・離職後に同じ会社で復職できる「再雇用制度」はあるか

・現地就労の可能性はあるか

・オンラインでの業務継続はできるか

 

 思い込みで選択肢を狭めていないか、一度立ち止まる価値があります。また、現在では、副業やリモートワーク、資格取得、学び直しなど、キャリアの捉え方も多様になっています。駐在同行=キャリア断絶、とは限りません。情報を集めずに決断するのは危険です。感情と同時に、事実についても整理しましょう。

 

④ 「どの後悔なら引き受けられるか」を想像する

迷ったときにおすすめなのが、この問いです。「3年後、どんな後悔が一番つらいだろう?」

 

・行かなかったことで、家族で過ごす時間が減ってしまった後悔

・行かなかったことで、自分自身の世界の広がりを逃したという後悔

・行ったことで、今の仕事におけるポジションや昇進の機会を失ったという後悔

 

どんな選択をしたとしても、「後悔が全くない」とは限りません。けれど、“どの後悔なら引き受けられるか”は選べます。自分自身の感情に蓋をせず、迷いや不安を書き出してみましょう。そして、自分自身がいずれかの選択をした場合、どんなことが想像されるか、仮に後悔するとすればどんなことか、思いをめぐらせてみましょう。それだけでも、判断はクリアになるはずです。

 

⑤ 他人の選択と比べすぎない

SNSを開くと、いろいろな人の今が、目に入ります。駐在に同行し、海外生活を謳歌している様子はキラキラと輝いて見えます。一方で、日本でバリバリと働き、着実にキャリアアップしていく姿を目にすることもあるでしょう。

 

けれど、その人の価値観もその家庭の事情や判断軸も、あなた自身のそれとは違います。同行して後悔する人もいれば、単身赴任で関係が悪化する家庭もある。逆もまた然りです。大事なのは、ゆるぎない“私の軸、我が家の軸”を持つことです。

 

筆者の体験から:「痛み」を伴わない決断はない 

筆者自身も、駐在同行を選んだ当事者です。入社14年目、第一子出産直後の育休中に夫の海外赴任が決まりました。当時、社内では重要なポジションを任され、昇格も遠くない。復職後はワーキングマザーとしてキャリアを築くつもりでいました。判断軸は、実は明確でした。「夫婦二人で子どもを育てたい」。その思いに迷いはありませんでした。それでも、会社を辞めるという決断は苦しいものでした。積み上げてきた実績やキャリア、これからめぐってくるだろう挑戦の機会を手放すこと。そして何より、共に走ってきた仲間と別れることが、一番つらかったのかもしれません。「自分はもう、この一員ではなくなるのだ」と実感したとき、胸の奥が静かに痛みました。それでも、迷いはなかった判断軸。その軸に従った、苦渋の選択でした。

 

最後に

駐在同行は、キャリアか家族か、の2択ではありません。どう組み合わせるか、どう再設計するかの問題です。正解を探すのではなく、自分の思いを言語化し、「自分は何を大切にしたいのか」を少しずつ明らかにしていく。それこそが、未来への準備になります。駐在同行は、大きな決断です。けれど、その答えを一人で出す必要はありません。CCCでは、駐在員パートナーが自分の価値観や判断軸を言語化し、納得できる選択ができるような対話の場をつくっています。

 

「ほかの人はどう考えたのか知りたい」

 「駐在同行を考えるうえでのヒントがほしい」

 「同行後の生活についてリアルな話を聞いてみたい」

 「なかなか決断ができない」

 「自分の判断軸に自信が持てない」

 

そんな方はぜひCCC公式サイトをご覧ください。同じ立場だからこそ分かち合えるヒントがあるはずです。

 

▶Career Cafe Connectとは

駐在員パートナーのキャリア支援を目的とした非営利組織。駐在員パートナー個人の皆さまへ、再就労に役立つセミナーやキャリアに役立つ情報の提供、コミュニティ運営を行い、「納得感のあるキャリア選択」をサポートしています。開催したイベントの延べ参加人数は3,000人以上。(2018年~2026年1月)中国、アメリカ、シンガポール、メキシコ、日本に在住する約55名の駐在員パートナー経験者が中心となり運営しています。

Career Cafe Connect 公式サイト: https://careercafe-sha.themedia.jp/

 

◆運営・企画 Career Cafe Connect

◆編集・ライティング 浅野 藤子、畑 史

◆監修 一般社団法人キャリアコネクト

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