海外赴任の準備

駐在同行前のキャリア設計 ―海外生活前に「Will・Can・Must」で「自分の軸」を言語化してみよう―

海外赴任への同行が決まったとき、駐在員パートナーの多くが感じることの一つが、「これからの自分のキャリアはどうなるのだろう」という不安ではないでしょうか。

離職せざるをえなくなったり、これまで取り組んでいたことを止めることになったりして、キャリアが一度途切れてしまうように感じる人もいます。

「本帰国したとき、再就職できるのだろうか」
「この数年間は、ただのブランクになってしまうのではないか」

そんな思いを抱えながら渡航準備を進めている方も、いるかもしれません。

しかし、駐在同行期間は、ただの「キャリアブレイク」ではありません。
むしろ、自分自身のキャリアを見つめ直し、これからの人生の中で新しい可能性を広げるきっかけとなることも少なくないのです。

そのためにおすすめしたいのが、海外生活が始まる前に「自分の軸」を言語化しておくことです。

今回は、駐在員パートナーのキャリア支援を行う非営利団体、Career Cafe Connect(以下CCC)スタッフであり、元人事担当でパートナーの駐在に同行中の浅野藤子が、キャリアを考えるフレームワークとしてよく使われている「Will・Can・Must」という考え方をご紹介します。

この3つを整理することで、駐在同行期間をどのように過ごしたいか、自分なりの方向性が見えてくるはずです。

① Will:自分は何をしたいのか

屋上で物思いにふける女性の後ろ姿

まず最初に考えたいのが Will(やりたいこと) です。

Willは、「将来どんな仕事がしたいか」という未来の話だけではなく、「今どんなことに興味があるか」「どんなことをしていると楽しいか」といった身近なレベルから考えてもよいでしょう。

たとえば、

  • 文章を書くことが好き
  • 人に何かを教えることが好き
  • 新しい場所を知ることが楽しい
  • 誰かの役に立つ活動をしてみたい

こうした気持ちも、立派なWillです。

駐在同行前、引っ越し準備や生活の変化に目が向きがちですが、だからこそ改めて「自分は何をしてみたいのか」を考えてみてください。

Willを考える中で気づいたことの中には、海外生活をしているからこそ挑戦できることも、きっとあるはずです。

② Can:自分には何ができるのか

次に考えるのが Can(できること・強み) です。

これは、これまでの仕事や経験の中で身につけてきたスキルや、自分の得意なことを指します。

PCや電卓などデスク上に仕事道具が広げられている

例えば、

  • 営業経験
  • 事務スキル
  • 語学力
  • 文章作成
  • イベント企画
  • 人をまとめる力
  • 教育や指導の経験

こうしたスキルや特技は、職場を離れたとしても決して消えるものではありません。

また、例えば人をまとめてひっぱっていく力など、「仕事」として経験していないことでも、子育てや地域活動、ボランティアなどの中で培われている場合もあります。

自分では「当たり前」と思っていることが、他の人から見ると、実は価値のあるスキルであることも多いのです。

一度、自分のこれまでを振り返って「自分にはどんな力があるのか」「これまでやってきたことから得られたものはスキルは何か」を書き出してみましょう。新しい可能性が見えてくることがあります。

③ Must:社会や環境から求められていること

最後に考えるのが Must(求められていること) です。

これは、社会や周囲が自分に必要としていること、あるいは自分の環境の中で求められている役割を意味します。

海外生活では、日本にいたときには想像していなかった役割が生まれることがあります。

たとえば、

  • 日本人コミュニティのサポート
  • 日本語教育
  • 現地生活の情報発信
  • 異文化理解の橋渡し

などです。

また、家族の生活を支えることや、安心して過ごせるような環境づくりも大切な役割の一つかもしれません。

Mustは、「やらなければならないこと」というよりも、自分が行うことで「社会の中で役に立つこと」と考えるとよいでしょう。

④ 3つが重なるところにヒントがある

指をさしてポイントを示す

キャリアを考えるとき、Will・Can・Mustは単独ではなく、それらの重なる部分にヒントがあると言われています。

たとえば、

  • 文章を書くことが好き(Will)
  • 編集の経験がある(Can)
  • 海外生活の情報を知りたい人がいる(Must)

という3つが重なり、海外生活の情報発信という活動につながるかもしれません。

また、

  • 人と話すことが好き(Will)
  • 人材育成の経験がある(Can)
  • 海外で孤立しがちな人がいる(Must)

この場合は、現地でのコミュニティづくりやサポート活動などにつながる可能性もあります。

⑤ 実際の駐在員パートナーの例

ファイルを手に、人の話を聞いている女性

私自身も、日本では一般企業で人事の仕事をしていました。

主な業務は、新卒・中途採用、社員教育、そして社内報の企画・制作です。

入社14年目、ちょうど第一子の育児休業中に夫の海外赴任が決まりました。結果として、会社を退職して渡航することになります。

渡航後に見つけたのが、駐在ファミリー向け情報サイトのスタッフ募集の案内でした。

当時はまだ乳児がいたため、オンラインで活動できることが大きな魅力でした。

会社などの組織の中で活動することが好きだったこと(Will)、

仕事で培ってきた編集・校正のスキル(Can)、

そして、立ち上がったばかりの団体でサイトの編集メンバーが必要とされていたこと(Must)。

この3つが重なり、私はこの情報サイトの編集担当として、ボランティア活動に関わるようになりました。

活動を始めてうれしかったのは、スタッフから

「すごく読みやすくなった!」

「こうやって書けばいいんだね。勉強になった!」

という言葉が寄せられたことです。

その経験を通じて、

「自分の持っているスキルを必要としている人がいる(Must)」ということにも気づきました。

そしてその後、元人事の経験を活かし、駐在員パートナー向けに職務経歴書の書き方を中心とした再就職セミナーを開催することになりました。

海外生活の中で、Will・Can・Mustをきっかけにした小さなチャレンジが、次のキャリアにつながった一例です。

⑥ 最後に

簡単にできる「Will・Can・Mustワーク」。ぜひ一度紙に書き出してみてください。

Will(やりたいこと)

興味があること、好きなこと

Can(できること)

経験、得意なこと、スキル

Must(求められていること)

社会や周囲のニーズ

3つをそれぞれ書き出し、重なる部分を見つけてみます。

すぐに答えが出なくても大丈夫です。

書き出すことで、自分の中の考えが少しずつ整理されていきます。

駐在同行期間は「キャリアの再設計」の時間であり、これまでのキャリアをいったん立ち止まって見つめ直すことができる時間でもあります。

忙しい日常の中ではなかなかできなかった

  • 新しい学び
  • 人との出会い
  • 新しい挑戦

が広がる可能性もあります。

海外生活の経験はきっと、また次のキャリアへとつながっていきます。

焦らず、自分のペースで。

駐在同行期間を、未来につながる時間にしていきましょう。

◆運営・企画 Career Cafe Connect

◆編集・ライティング 浅野 藤子、畑 史

◆監修 一般社団法人キャリアコネクト

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