赴任先での生活
駐在同行期間は“学びのゴールデンタイム”──再就職や新しいキャリアにつながる3つの学び<後編>
駐在同行で仕事を離れている期間は、キャリアにとって「空白の時間」ではありません。むしろ、現役で働いている間には時間を確保しにくかった学びに取り組み、帰国後の再就職や新しいキャリアの選択肢を広げるチャンスです。
前編では「語学」「IT・AIスキル」「資格・専門スキル」の3つを紹介しました。後編では、「ビジネス基礎」「心のマネジメント」「異文化コミュニケーション」の3つに注目します。駐在同行期間の経験を、どのように将来のキャリアにつなげていけばよいのか。10年間、人事部で採用業務に携わったキャリアコネクトスタッフ・浅野藤子が、再就職の視点からもお伝えします。
公開日:2026年9月24日
この記事で書かれていること
4.ビジネス基礎──再就職後の「仕事への適応力」を高める
現役で働いていた頃、「経営について体系的に学びたい」「マーケティングを基礎から理解したい」「会計の数字を読めるようになりたい」「論理的に考える力を鍛えたい」と思っていた方は少なくないのではないでしょうか。
これらは、学べば仕事の幅を広げられると分かっていながらも、「忙しくて時間がない」と後回しになりやすい分野です。だからこそ、時間の使い方を自分で決めやすい駐在同行期間に、ビジネスの基礎を学ぶことには大きな意味があります。
経営、マーケティング、会計、戦略、ロジカルシンキングなどの知識は、特定の職種だけでなく、さまざまな仕事で活かせる「ポータブルな知識」です。再就職の際にも、業務理解の早さ、数字をもとに考える力、資料作成や発言の質の向上などにつながり、「新しい職場に適応しやすい人」という評価につながる可能性があります。
また、学びそのものだけでなく、「働いていない期間にも、自分の意思でビジネスを学んでいた」という事実は、再就職に向けて行動してきたことを伝える材料にもなります。

キャリア形成の考え方の一つに、グロービス経営大学院が紹介する「両利きのキャリア」という視点があります。
これは、次の2つを組み合わせてキャリアの可能性を広げていく考え方です。
- 深化:今ある強みを磨くこと
- 探索:新しい領域に挑戦すること
働いていた頃に培った経験や強みを磨き続けることは、“深化”にあたります。そこへ新たに経営・マーケティング・会計・戦略といったビジネス基礎の学びを加えると、“探索”の領域が広がります。
この「深化」と「探索」の両輪がそろうことで、今後のキャリアの選択肢が広がる可能性があります。
ビジネス基礎を学ぶには、グロービス経営大学院のように海外からでもオンラインで学べる教育機関を頼るのも1つの手でしょう。
5.心のマネジメント──自分を整える力は、キャリアにも活かせる
駐在員パートナーとして海外で生活していると、「帰国したら自分は何をしたいのだろう」「このままキャリアが途切れてしまうのではないか」「海外生活の間に何をすればいいのだろう」と、不安や迷いを感じることがあります。
環境の変化、言葉の壁、育児、家族との生活、これまで築いてきた人間関係から離れることなど、心が揺れやすい要素が重なるのが海外生活です。だからこそ、心理学、コーチング、メンタルヘルスなど「心のマネジメント」に関する学びは、まず自分自身を支えるための実用的な知識になります。
自分の感情の変化に気づく。不安や焦りを言葉にする。「本当は、自分はどうしたいのか」を整理する。こうした力が身につくと、自分自身の迷いや揺らぎに少しずつ向き合えるようになります。

さらに、心のマネジメントを学ぶことは、家族や周囲との関係にも活かせます。友人の話を聴く、子どもの気持ちに寄り添う、パートナーの仕事上のストレスを理解するなど、学びは「自分のため」から「人のため」へと広がっていくのです。
そして、そこで身につく傾聴力、言語化力、コミュニケーション力、感情を扱う力、人の変化を支える力は、職種を問わず活かせるスキルです。
私はキャリアという分野ですが、自分自身が深く悩んだ経験が、現在の活動につながっています。渡航のために仕事を離れた当時は、長い時間をかけて悩みました。キャリアについて学んだ今、当時を振り返ると、「あのとき、こんな考え方を知っていたら、もっと気持ちが楽になれたのに」と思うことがあります。
だからこそ、キャリアについて悩んでいる方に向けてこのコラムを書いています。学ぶことで自分自身を少し楽にしてほしい。そして、その学びが、いつか誰かを支える力や次のキャリアにつながるかもしれません。
6.異文化コミュニケーション──海外生活で得た「生活者としての視点」をキャリアの強みに
「異文化コミュニケーション」と聞くと、海外で仕事をするためのビジネスマナーや交渉術を思い浮かべるかもしれません。しかし、駐在員パートナーだからこそ身につけられるのは、もっと生活に根ざした「現地の文化を理解する力」です。

例えば、中国で暮らしていると、日本とは異なる人との距離感やコミュニケーション、物事の進め方を日々体感します。初対面の相手にも気軽に話しかける、興味のあることを率直に尋ねる、まず連絡先を交換して関係をつくる。あるいは、細かいことをすべて決めてから動くのではなく、まず行動し、動きながら考えて軌道修正する。
こうした「生活者としての肌感覚」は、旅行や短期の海外出張だけではなかなか得られません。毎日の暮らしの中で現地の人と接し、失敗したり戸惑ったりしながら生活するからこそ身につくものです。
そして、この経験は、海外で事業を展開する日本企業にとっても価値があります。
例えば、「現地の人は何を大切にしているのか」「なぜこの商品やサービスが現地で受け入れられるのか」「日本人とは異なる行動の背景には何があるのか」。こうした情報は、市場調査や統計データだけでは見えにくいものです。
海外で暮らした経験を「海外に住んでいました」だけで終わらせるのではなく、そこで感じた文化の違いや人々の価値観を観察し、自分の言葉で説明できるようにする。それができれば、駐在同行期間に得た経験は「海外生活」から「異文化理解というスキル」へと変わります。
海外経験をキャリアの強みに変えるために大切なのは、経験したことそのものだけではありません。「何を見て、何を感じ、何を学び、それを仕事でどう活かせるのか」まで言語化することです。駐在同行期間だからこそ得られる「生活者としての視点」を、自分だけのキャリア資産として蓄えていきましょう。
まとめ──駐在同行期間の学びを、未来のキャリア資産に
駐在同行期間にできる学びは、資格取得や語学力の向上だけではありません。ビジネス基礎を学べば再就職後の仕事への適応力を高められ、心のマネジメントを学べば自分や周囲を支える力になります。そして、海外生活を通して得た異文化理解は、海外事業やグローバルな環境で活かせる貴重な経験になります。
大切なのは、「帰国後のために何かをしなければ」と焦ることではありません。今の自分が興味を持てること、知りたいと思うことから、小さく始めてみることです。
どんな小さな学びでも、続けていけば、それは必ず自分の経験になります。そして経験を振り返り、言葉にし、誰かの役に立つ形に変えていくことで、それはやがて「キャリアの強み」になります。
駐在同行期間を、キャリアの空白ではなく、未来の選択肢を増やす「学びのゴールデンタイム」に。今だからこそできる一歩を、ぜひ探してみてください。
【一般社団法人キャリアコネクト】
一般社団法人キャリアコネクトは、「キャリア支援を通じて、企業も個人も持続的に成長できる社会づくり」を目指す非営利団体です。駐在員パートナーへのキャリア支援や、企業向け研修・講演を行っています。
企業にとっても、駐在員パートナーのキャリア支援は、離職防止やグローバル人材の定着につながる重要なテーマです。また、個人向けサービス「Career Cafe Connect」では、セミナーやキャリア相談、イベントを通じて、海外経験を将来のキャリアにつなげるサポートを提供しています。
◆企画 Career Cafe Connect
◆編集・ライティング 浅野 藤子、畑 史
◆監修 一般社団法人キャリアコネクト

