海外滞在中の子供の教育
海外赴任で子どもが学校になじめないとき|親ができる気持ちの受け止め方
海外赴任に帯同する子どもは、学校・言葉・文化・友人関係が一度に変わる中で、新しい環境になじめないと感じることがあります。子どもの様子がいつもと違うとき、親はどう受け止め、どのように話を聞けばよいのでしょうか。フランス在住の心理士の視点から、家庭でできる関わり方を紹介します。
公開日:2026年10月13日
この記事で書かれていること
外国で学校に通うということ
外国で学校に通うにあたって、新しい環境にうまく適応できるかどうかは、その子の性格や学業の状況など、本人の内的要因と、外的な環境要因が関係してくると思います。
これまで海外に行ったことがあったのか、現地語や共通語である英語に親しんでいたのか、元々親と一緒に海外に行くことを強く希望していたのか、やむなく一緒に行くことになったのか。現地の日本人学校に行くのか、日本語も学べるインターナショナルスクールに行くのか、まったく日本語に触れないインターナショナルスクールに行くのか。
また、日本人の子どもがいるのか、いるとしても人数は多いのか少ないのか、気が合いそうな子がいるのか、学校の雰囲気は自由な感じなのか、それとも学業に力を入れている学校なのかなど、さまざまな環境要因があげられます。
親御さんも学校選びには苦労されることが多いと思いますが、親と比べて経験や知識が圧倒的に少ない子どもたちの頭と心の中では、どのように新しい環境に適応していくのでしょうか。
気候も、言葉も、文化も違う国で

海外生活では、気候、言葉、文化、手続きの進め方など、日本との違いに戸惑う場面があります。
たとえばフランスでは、秋から冬にかけて日照時間が短くなり、曇りや雨の日が続くことで、気分が沈みやすく感じられることがあります。また、手続きや生活習慣の違いに慣れるまで、思うように進まないと感じる場面もあります。
こうした環境の変化は、大人にとっても子どもにとっても、少なからず負担になることがあります。
「パリ症候群」という症例を発表した精神科医の太田博昭医師は、相手の話を奪い合うフランス人の会話をサッカーに例え、人の話を最後まで聞く日本人の会話のスタイルを、ピッチャーが球を投げるのを皆が待つ野球に例えました。
「自己を表現する S’exprimer」というのが、フランスの幼稚園からの子どもの教育目標の中にあります。自分の考えていることを主張するように小さい時から教育されているのですが、日本では、他者とより良く調和して生きていくことも求められ、他人に迷惑をかけない、和を乱さない、協調性が重視されているのではないでしょうか。
どちらがより良いというわけではありません。ただ、サッカーの国に、野球に慣れている国から行くと、大人も子どもも最初は面食らうのが当然ではないでしょうか。
海外生活はチャレンジでもあり、チャンスでもある
親世代は子どもに良かれと思って、「子どもにたくさんの経験をしてもらいたい」と、あえて現地校やインターナショナルスクールに入れることがあります。場合によっては、そこに入れるしか方法がないこともあるでしょう。
一方で、一部の子どもは環境に適応できず、学校に行けなくなり、現地で不登校になってしまうことがあります。その結果、「学校に行ってほしい」親と「学校に行けない」子どもの仲が悪くなるケースも見受けられます。日本では、部活をやり、リーダーとして元気に楽しく学校生活を送っていた子であっても、海外で不登校になっているケースがあります。
もちろん、現地の素晴らしい人たちと出会い、大きな問題もなく、新しい国に順応して、たくさんの経験をし、楽しく生活できるお子さんもたくさんいます。親御さんは、無理に心配しすぎる必要はないと思います。
しかし、お子さんが日本とは大きく違う環境にすぐ適応できなくても、それは決して珍しいことではないということは、覚えておいてください。もちろん、親にとってもすべてが初めての体験です。近所の人、スーパー、病院、保護者との付き合い、新しい職場、新しい人間関係、新しい取引先という環境の中で、親自身も慣れない環境により心身の不調を感じることがあります。
海外生活で子どもの様子が気になったとき
元気がなさそう、あまり話さなくなった、以前と様子が違う。そんな変化が見られたときは、まず一度、ゆっくりとお子さんの話を最後まで聞き切ってみてください。
子どもの話を聞くときに大切な4つのこと
海外という知らない場所で、子どもの心に安心と自由を育てるには、どのような関わり方ができるのでしょうか。
元気がなさそうだな、あまり話さなくなったななど、以前とお子さんの様子が違うと感じたら、一度ゆっくりとお子さんの話を最後まで聞き切ってみてください。その際に、大事な点が4つあります。
- 1. 話を途中で遮らない
- 2.「どうして行けないんだ!」など、お子さんを責めない
- 3.「どうせおまえは○○だ!」など、決めつけない
- 4. 話を聞き切った後、一旦「それはつらかったね」「悲しかったね」「大変だったね」と受け止める
これができると、お子さんは安心して自分の気持ちを打ち明けられるようになります。
自由に話ができる環境が一定期間続くと、子どもの心の中に安心と安全が生まれます。そして、心に余裕とエネルギーが湧き出てきて、自らチャレンジすることが可能になっていきます。
相手の話をジャッジせずに最後まで聞き切り、肯定するという姿勢は、お子さんにだけでなく、大人にも通用します。そして、相手と深い信頼関係を築くことにもつながります。また、海外でなくても、新しい環境にいる誰に対しても大切な関わり方だと思います。
家族で新しい環境に向き合うために
日本の忙しい生活から離れ、海外で少し時間的に余裕のある生活ができると、家族みんなで過ごせる時間も増えるかもしれません。
海外に来て、親も子も共に新しいチャレンジをしている仲間として、家族の中だけは、それぞれが自由に自分の気持ちを最後まで言える関係性ができれば、さらに仲が良くなり、お互いが信頼し合える、自由で楽しい、安心安全な家族を作ることができるのではないでしょうか。
それはきっと、家族全員にとって忘れられない、最高の思い出となることと思います。
※本記事は筆者の経験および専門的知見に基づく寄稿です。お子さまの心身の不調、学校への行きづらさ、海外生活への適応に関するお悩みについては、学校、勤務先、現地または日本の医療機関・相談機関等へご相談ください。
参考文献
- Benoit, L., Harf, A., & Moro, M. R. (Dir.). (2020). Phobie scolaire : Retrouver le plaisir d’apprendre (p. 17). Éditions Vigot.
- Ministère Education National. L’école maternelle. (2025)
- 文部科学省幼稚園教育要領解説(2018)
- 太田博昭. (1991). パリ症候群. トラベルジャーナル.
- Ota, H. (2025). Le syndrome de Paris d’hier à aujourd’hui. L’Harmattan
藤堂史恵(心理士)/邦人健康サポートの会
結婚を機にフランスに在住して二十数年。フランスにて心理士の資格を取り、個人開業でカウンセリングを行っている。

