海外赴任の準備
アメリカ駐在が決まったら|夫婦で話したい「これからの働き方とキャリア」
海外赴任が決まると、住まいや子どもの学校、引っ越しの準備など、決めることが次々と出てきます。その一方で、家族それぞれの働き方やキャリアについては 、十分に話し合わないまま渡米を迎える夫婦も少なくありません。
特に帯同する配偶者は、「向こうに行ってから考えよう」「きっと何とかなるだろう」と思っていても、実際に現地で仕事を離れた生活が始まると、想像以上に不安や戸惑いを感じることがあります。だからこそ、帯同配偶者のキャリアは一人で抱える問題ではなく、夫婦で向き合うテーマとして考えることが大切です。
今回は、アメリカ駐在前に、夫婦で話し合っておきたい「働き方やキャリア」について考えてみます。
公開日:2026年8月3日
この記事で書かれていること
海外赴任は家族全員の転機であり、キャリアも例外ではない
海外赴任は、赴任する本人だけでなく、家族全員の生活を大きく変える出来事です。しかし、仕事を続ける側のキャリアプランは会社が支援してくれても、帯同する配偶者のキャリアについては「個人の問題」として扱われがちです。
実際には、帯同によって仕事を辞めたり、働き方を変えたりする決断は、家族の事情によって生まれるものです。その影響を帯同配偶者だけが受け止めるのではなく、「家族としてどのような選択をするのか」という視点で考えることが重要です。
海外赴任は一人のキャリアだけが前に進む出来事ではありません。家族全体のライフプランを見直す機会でもあり、その中には帯同配偶者の働き方も含まれていることを、夫婦で共有しておきたいものです。
海外赴任が決まると、目の前には引っ越しや各種手続きなど、期限のある準備が次々と押し寄せます。そのため、キャリアのように「急ぎではないけれど大切なこと」は、つい後回しになりがちです。しかし、その話し合いを後回しにしたまま渡米すると、現地で初めて、「こんなふうに考えていたなんて知らなかった」と、お互いの気持ちに気づくこともあります。
「大丈夫」という励ましだけでは、不安はなくならない
赴任する側は、「現地でも何かできるよ」「好きなことを見つければいいよ」と励ますつもりで声をかけることがあります。もちろん、その言葉に悪意はありません。大切な人を元気づけたいという思いから出てくる、ごく自然な反応でしょう。
一方で、帯同する側は、「本当に働けるのだろうか」「帰国後に仕事へ戻れるのだろうか」「これまで積み重ねてきたキャリアが途切れてしまうのではないか」といった、現実的な不安を抱えていることが少なくありません。
私が話を伺ったある方は、「夫から『向こうでも何かできるよ』と言われて安心した反面、『何ができるかは自分で考えてね』と言われたような気持ちになった」と話していました。
励ましの言葉は相手を思うからこそ出てくるものです。しかし、前向きな言葉をかけることに意識が向くあまり、相手が抱えている不安や喪失感に十分耳を傾けられなくなることがあります。
だからこそ、すぐに「大丈夫」と答えを出そうとするよりも、「何が一番心配?」「仕事を離れることをどう感じている?」と尋ね、相手の気持ちを受け止める時間を持つことが大切です。その対話が、お互いを理解し、これからの働き方を一緒に考える第一歩になります。
帯同前だからこそ話し合いたい、これからのキャリア
帯同前に話し合うべきことは、「現地で働けるかどうか」だけではありません。帯同期間をどのくらい想定しているのか、帰国後にはどのような働き方を希望しているのか、資格取得や学び直しに時間や費用をかけることをどう考えるのかなど、話し合えることは数多くあります。また、子どもがいる家庭であれば、家事や育児の役割分担についても改めて確認しておくことが大切です。
実際に、帯同前にこうしたことを夫婦で話し合っていたかどうかが、現地での過ごし方や気持ちに影響したという話も伺いました。
帯同中に「今は資格取得に時間を使おう」「英語を学び直そう」と夫婦で話し合っていた方は、「現地で『何もしなくていいのだろうか』と焦らずに過ごせた」と振り返っていました。
一方で、「何も決めないまま来てしまった」という方は、「毎日が手探りで、自分だけ取り残されたような気持ちになった」と話してくれました。また別の方は、「帰国後の仕事について夫婦で話したのは、帰国が決まる半年前が初めてだった」と教えてくれました。
すべての答えを帯同前に決める必要はありません。しかし、お互いの考えや希望を共有しておくだけでも、現地で予想外の出来事が起きたときに、その都度キャリアや働き方について話し合いやすくなります。
正解を決めるより、対話を続けることが夫婦の支えになる
海外生活では、赴任期間の延長や帰国時期の変更など、当初の予定どおりに進まないことも珍しくありません。それに伴い、「今は仕事より子育てを優先したい」「やはりもう一度働きたい」など、お互いの考えが変化することもあります。 そのため、一度話し合えば終わりではなく、状況に応じて何度でも話し合いを重ねることが大切です。
「今は何を優先したいのか」「困っていることはないか」「これから挑戦したいことはあるか」といった会話を続けることで、お互いの変化にも気づきやすくなります。
海外赴任は、赴任する人だけでなく、帯同する家族にとっても人生の大きな転機です。だからこそ、お互いのキャリアを「相手の問題」とせず、夫婦で一緒に考え続けることが、変化の多い海外生活を支える土台になります。
海外赴任は、夫婦のどちらか一人のキャリアだけが変化する出来事ではありません。だからこそ、お互いの働き方やキャリアについて率直に話し合い、変化に応じて考え続けることが大切です。
すべての不安を出発前に解消することは難しいかもしれません。しかし、「困ったらまた話し合おう」という共通認識があるだけでも、海外生活で感じる孤独や不安は和らぎます。夫婦で支え合いながら未来を考え続けることが、それぞれにとって納得のいくキャリアを築く第一歩になるはずです。
– 寄稿 –
上野真衣子
アメリカの非営利団体Hub Park共同設立者。海外にルーツを持つ人々や駐在帯同者を含む、海外で暮らす人々のキャリアや生き方をテーマに、プログラム運営や情報発信に携わる。米国・日本での人事経験やキャリア支援の経験をもとに、個々の状況に応じたキャリアの考え方について発信している。
【公式サイト】https://hubpark.org/
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