海外滞在中の子供の教育

海外の教室で見つけた「ありのまま」を包む空気〜タイの学生たちと考える、家庭で育むジャッジしない安心感〜

主人の転勤に伴い、上海、栃木、そしてバンコクへと移動を繰り返す中で、私は常に「性教育」や「子どもの心の居場所」という視点を中心に、それぞれの街のあり方を見つめてきました。

現在暮らしているバンコクは、世界的にも多様性に対してオープンで寛容な街だと言われています。私は平日にタイの女子高校に勤務しながら、現地で暮らす邦人ご家族に向けて、性教育の講座や相談活動を行っています。

※本記事は筆者の経験をもとに執筆された寄稿です。内容には個人の体験・見聞・見解が含まれます。

バンコクで出会った「あたりまえの多様性」

多様性を包み込む優しい環境

講座の最初に、私は必ず「世の中にはいろいろな性や生き方がある」というお話をしています。

異国の地での暮らしや環境の変化の中で、自身の性や自分らしさについて悩むお子さんが、「どこに、だれに相談していいかわからない」と一人で抱え込んでしまうことがあります。そんなとき、一人でも「ありのままのあなたでいいんだよ」と話を聴いてあげられる大人が横にいるだけで、子どもたちの心はふっと軽くなります。一人ひとりの生きづらさを和らげ、安心して自分らしく過ごせる環境を作ることこそが、私の使命だと考えています

さて、多様性に寛容と言われるバンコクですが、タイの文化には単に制度が整っているという以上の、そこに暮らす人々ならではの「受け入れ方」の本質があります。

タイの根底には「マイペンライ(気にしない、大丈夫)」の精神があります。「完璧じゃなくても大丈夫、人間だもの」とお互いを大らかに受け入れ合う文化が、結果として「人と違っても大丈夫」という、それぞれの個性を包み込む優しい環境を作り出しているのです。

心の命を守る「ジャッジしない空気」

個性の違った子供たちがのびのび生きる

タイの学校に身を置いていると、時折、ハッとするような素敵な光景に出会います。

ある日、生徒から満面の笑みで「先生!この人が私のパートナー!」と幸せいっぱいに紹介されたことがありました。子どもたちがトランスジェンダーの友人の話をするときも、周囲が変な目で見たり、特別視したりすることはもちろんありません。それはまるで、「今日のお昼、何食べる?」とランチのメニューを決めるのと同じくらいの自然さです。

誰かが「同性が好きかもしれない」「自分らしくいたい」と話しても、周りの子どもたちは「へえ、そうなんだ!」と、ごく当たり前にその子のありのままを受け止めます。

ここにあるのは、「あなたはあなた、私は私」という、個人の尊厳への絶対的なリスペクトです。

人間にとって、「ここでは何を言っても否定(ジャッジ)されない」という安心感は、心のセーフティネットそのものです。他人の領域に踏み込みすぎず、かといって排除もしないタイの人々の温かい距離感。これこそが、子どもたちが自分を偽らず、のびのびと生きていける雰囲気を作り出しているのだと気づかされました。

家庭から広げる「あなたはそのままで大丈夫」の輪

日本の一般的な男女の学生イメージ

ひるがえって、私たちの日々の家庭生活や、子どもたちを取り巻く環境はどうでしょうか。

海外赴任という大きな変化の中では、保護者の方も「現地になじめているだろうか」「『普通』の枠から外れていないだろうか」と心配になる場面が多いかもしれません。しかし、「こうあるべき」「みんなと同じであること」という目に見えない枠組みが強すぎると、子どもたちは「変だと思われるのではないか」という恐怖から、大切な悩みを一人で抱え込んでしまいがちです。

バンコクの社会が教えてくれたのは、多様性を受け入れるとは、大層な仕組みを作ることではなく、目の前の相手を「否定せず、そのまま受け止める」という一人ひとりの心のあり方だということです。

家庭でできる性教育や関わりも、単に身体の仕組みや知識を教えることだけではありません。自分の心と体を大切にすること、そして他者のあり方を尊重する「心の土台」を育むことが何より大切です。

子どもにとって、家庭が「何を言っても否定されない安全な居場所(サードプレイスならぬファーストプレイス)」であれば、子どもは外の社会でどんな変化に出会っても、自分を見失わずに歩んでいくことができます。

⭐ 今日から家庭でできる「ジャッジしない」関わり方のヒント

最後に、ご家庭で今日から意識できる小さなポイントをいくつかご紹介します。

子どもの話を、まずは「そうなんだね」と否定せずに聴く

アドバイスや否定を急がず、まずは「話してくれてありがとう」と受け止める姿勢が安心感を生みます。
「普通はこう」「みんなはこう」という物差しを一度手放してみる。
「普通」という言葉の代わりに、「あなたはどう感じる?」と個人の気持ちに焦点を当ててみましょう。

性や身体についての話題を過度にタブー視しない

体や心についての疑問を聞かれたら、オープンに、ランチの話題と同じくらい自然なトーンで答えてあげることで、子どもも「相談していいんだ」と感じられます。

困ったときの相談先を親子で一緒に確認しておく

「親以外にも、頼れる人や場所がここ(または日本)にあるよ」とリストアップしておくことで、親子の心の余白が生まれます。
子どもたちが「自分は自分であって大丈夫」と思える温かい日常を、まずは一番身近な家庭から、一歩ずつ作っていきませんか。

– 執筆 –

美並りな
(看護師 バンコクこころ保健室代表/日本思春期学会会員/性教育認定講師/思春期保健相談士 / 一社)ゆいグローバルネットチームメンバー)

バンコク在住 タイの学校に勤務する傍ら、バンコク在住邦人ヘ向けた性教育講座・相談を行っている。海外(バンコク)で日本語で受けれる性教育がないことから、講座や相談業務を始める。現在、不妊から思春期まで幅広いご相談を受けている。

【ゆいグローバルネット】

在外邦人をはじめとする越境する人々の相互支援の輪を拡げ、経験知をつなぐ非営利団体。世界各地の邦人互助団体とのネットワーク作りに力を入れ、お互いに学び合い、課題を共有し、海外生活の工夫を共有することで、駐在同行家族が世界各地で生き生きと活躍できる場づくりを目指している。様々なテーマでイベントや講座を行う他、毎年10月には世界各地の邦人互助団体が主催するオンラインイベントが一同に介する「ゆいフェス」を開催。

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