赴任先での生活

令和版「カルチャーショック」のとらえ方-海外赴任は学びの宝庫

「海外赴任」が決まると、まず言葉が心配な人も多いでしょう。もし、現地語が得意な言語だとしても、日本と習慣の違う文化圏に住むことについて、一抹の不安を抱くのではないでしょうか。

住み慣れた国から海外に出ていく際に起こることをシミュレーションする上で「異文化適応」の理論は助けになります。そのような専門分野についてあまり聞いたことがなくても、「カルチャーショック」という言葉は耳にしたことがある方も多いと思います。

この記事では「カルチャーショック」について少しだけ深堀りしてみます。そして海外赴任中の異文化経験は、すべて自分だけの学びにつながるという新しい視点を紹介します。 不安に埋もれそうになりがちな時、駐在生活をポジティブな経験へと変換できるきっかけ作りにつながることを願っています。

海外生活で得られるもの=「日本の素晴らしさ」?

最近は日本の文化や社会は世界に誇れるものだと言い切ることができる人も多いと思います。実際、メディアもよく世界で日本の文化や社会への関心が高まっていることを伝えています。それと同時に異文化や多文化という言葉もちょくちょく耳にするようになりました。でも、自分の慣れ親しんだ場所を離れて、異文化で生活することはどんなことなのか、想像しにくい面もあるのではないでしょうか。

日本国内でも引っ越したら、色々と戸惑うことはあります。
関西から関東へ、都会から地方へ、などの移動でも日常生活の「常識」や細かいことはかなり違うでしょう。
国外への引っ越しとなればなおさらです。
バスや電車、あるいは町の様子などのごくありふれた風景の中に「こんなに違うのか!」と驚くことも多くあると思います。

最初は驚きの連続というのも新鮮で、楽しいものです。
ただ、それが毎日、毎週、毎月…と続いていくと、日本との違いの戸惑いに疲れてくることも増えます。
特に思ったようにうまく行かないことがいくつもあったり、言葉が通じなかったりすると、ストレスが溜まります。

そのような時、異国で生活していれば多くの人は比較の対象が「日本」しかないわけですから、「日本と違う」という違和感が積み重なっていくことになるでしょう。

でも「だから日本がいい」「早く駐在が終わりますように!」と考えるという結論は少しもったいない気がしませんか。
何も華麗なるステップアップをしましょうと提案するわけではありません。
ただ、ちょっと周りを見回せば、海外での経験を生かしてその後の人生も充実させている人も大勢、いるのではないでしょうか。
海外生活で嫌なことがあったとき、日本の良さを再認識することはもちろん自然でさえあると思いますが、更に一歩進んで、そこから何か特別な学びを得ることができると考えてみてはどうでしょうか。

海外生活は「カルチャーショック」の「U字曲線」で説明できる?

留学や長期海外生活者の適応について、以下のような「U字曲線」での説明を聞いたことがあるかもしれません。

U字曲線

最初はすべてが新鮮で楽しく思えるハネムーン期。やがて異文化に対するショックを受けて自分の価値観が揺らぎ、落ち込むカルチャーショック期(危機)が訪れる。しかしその後対処法を学んで徐々に回復し、新しい生活に適応していく、という四段階を経ると考えられる、というモデルです。

ただ、実際に海外生活をしてみれば、そんなに単純な話ではないと思うことも多いはずです。

しかも実は、このU字曲線が提唱されたのは1960年です。
我々を取り巻く環境は、このころとはかなり異なっています。
スマホ・SNSの登場以降、世界各地で起こっていることやそれに対する現地の反応など、世界の情報はほぼ誰でも、瞬時に手に入るようになりました。よくも悪くもグローバル文化というものが形成されてきていると言えますし、昔は夢でしかなかった「テレビ電話」さえあるわけですから、おそらく海外に出て「文化の枠組みが崩壊する体験」は減ったのではないでしょうか。

そしてだからこそ、意識的に学ばないと「比べて終わり」になりやすいのかもしれません。

大人の学びとしての海外体験

「意識的に学ぶ」と言われても、それってどういうこと?「U字曲線」以外に何かいいモデルがあるの?と疑問が渦巻いている人もいるかもしれません。

意識的に学びの機会ととらえるということは、文化の違いに限らず、今までの自分の価値観を揺るがされるような経験をしたとき、その経験を自分の持っている「前提」を見直すきっかけと考えるという視点を持つということです。

「前提」を見直すきっかけを考える

そして、このような視点を取り入れた学習モデルも実は存在します。
大人の学びの理論にも色々あるのですが、海外生活を学びの機会ととらえる上で参考になるものに、アメリカのジャック・メジロー(Jack Mezirow)という学者が提唱したものがあります。
詳細は割愛しますが、「正解を学ぶ」のではなく色々な段階を経て「自分の前提に気づく」のが大人の学びとしています。
その段階には10段階あり、色々と複雑ですが、特に海外生活に有効なコアの部分とは、学びのプロセスは

  • ①何らかの「揺らぎ」が起きる
  • ②自分の前提を問い直す
  • ③新しい視点とともに日常に戻る

という三段階をたどるということがいえると思われます。

先ほどの「カルチャーショック」のU字曲線と比較すると、以下のように示すことができそうです。

学びのサイクル

自分の言葉で表現することの大切さ

海外赴任中に限らず、違和感を感じる、モヤモヤする出来事があったとき、今の時代はAIに相談することもできます。
そうすればもっともらしい正解がすぐ得られるかもしれません。

また、忙しい毎日で自分の感情を整理したり、丁寧に振り返ったりする時間が取れないときもあるかもしれません。

それでも、「違和感」の正体をすぐ解き明かして先に進もうとするだけではなく、まずは言語化してみませんか。思いを言葉にするのは、5分でできるときもあると思います。
日記でも、家族との会話でもいい。それこそAI相手の壁打ちでもいいかもしれません。

ただ、そこから学びを得るには、AIに正解を教えてもらうのではなく、自分の言葉で、できれば手書きで違和感を書き出し、自分の前提を振り返る時間を持ってみるのも一つの方法です。そこから今まで自分でも気づかなかった、あなただけの新しい視点が見えてくるかもしれません。

– 寄稿 –

藻谷ようこ
【FaaB】ふぁーぶ・バイリンガル子育ての会主宰。「全米教育・子育て情報ネットワーク・JEINA(じぇいな)」共同設立。


カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)の町Davisで、2000年代から翻訳・調査業、大学・日本語・補習校などの教育業に携わりつつ、3人の子供を育てる。International House of Davisで月2回開催される国際家庭支援グループ、International Parents Community (IPC)のファシリテーターも務めている。
バイリンガル子育てや大学進学など、教育関係の相談も受け付け中。
下記関連サイトからお気軽にお問い合せ下さい。

【関連サイト】
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