渡航前の医療
海外赴任に帯同する子どもの健康を守る!海外での健康問題や予防接種など解説
子どもを帯同して海外赴任する場合、現地の治安や教育面も大切ですが、健康問題も重視すべきポイントです。「赤ちゃんの海外移住はいつからできる?」「海外渡航するとき、予防接種のスケジュールは?」「海外赴任前に健康診断を家族全員受けるべき?」など、気になることがたくさんあるでしょう。万が一、海外赴任に帯同させた子どもが健康を害してしまったら後悔してもしきれないものです。ここでは、子どもの健康管理に関するポイントをまとめました。健康を保つために必要な知識と準備をしっかりして海外赴任に臨みましょう。
この記事で書かれていること
1.海外でおこる健康問題は?
海外でかかりやすい病気に、かぜや胃腸炎があります。その他、気管支炎や肺炎、手足口病、みずぼうそう、おたふくかぜなどもあるようです。また、成長の過程で虫歯や視力低下などが顕在化することもあります。このように、海外でも子どもがかかりやすい病気は「日本にいる場合とあまり変わらない。」と考えられるでしょう。
また、重篤になりやすい健康問題の一つに事故があります。日本でも海外でも、事故は子どもの健康をおびやかす最大の要因です。子どもの発達に応じて的確に対応することにより、事故を予防することが可能です。たとえば、乳幼児期の子どもは誤飲、転倒、やけどなど家庭内の事故がみられます。また海外では住宅にプールが備えてあったりするので、子どもが溺れないように注意しましょう。
2.基礎疾患の管理
治療中の病気がある子どもは、まず早めに担当医と相談してください。「今の状態で海外で生活できるかどうか」、「フォローや治療の継続を海外で行うのか、日本国内で一時帰国時に行えばよいのか」などを相談します。そして出発前には、担当医から英文の診断書を書いてもらいましょう。現地で医療機関を受診する際の大切な情報になります。診断書には病名と簡単な経過、服用している薬の名前などを記入してもらってください。
3.現地で病気やケガをした時のために
子どもは、発熱や嘔吐、咳といった突発的な症状やケガの頻度が多いため、簡単な育児書もしくは医学書を持参しておくと、現地で調べたり、応急処置をしたりする時に役立ちます。そして、普段から受診しやすいかかりつけ医を決めておきましょう。もちろん、病気やケガは平日の昼間だけにおこるとは限りません。夜間や週末に受診可能な病院も調べておくと安心です。
海外赴任したばかりの時期は、環境の変化に伴い、子どもも病気やケガをしがちです。さらに、生活に慣れるまでは、医薬品を現地で入手することも困難であるため、解熱剤など頻繁に使う薬は、日本で使い慣れた薬を持参するようにしましょう。赤ちゃん用の爪切りや綿棒などの衛生用品も数個持参していくと便利です。
4.海外赴任中の子どもの予防接種について
日本で接種できる月齢・年齢相応の定期接種を実施することが基本です。また、日本では、「おたふくかぜワクチン」は任意接種ですが、海外に渡航する場合には年齢相応に接種してください。さらに、余裕があれば海外渡航者向けワクチン(トラベラーズワクチン)の接種を行いましょう。
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定期予防接種の記録を持参する
母子手帳に記載された予防接種記録を英訳して持参してください。現地で接種を継続したり、学校に入学したりする際に必要です。文書の作成はかかりつけの医師に依頼するのが理想的ですが、難しいようならトラベルクリニックや母子手帳の英訳を業務とする会社に依頼する方法もあります。
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定期予防接種を海外赴任先で継続する
日本では2歳頃までにBCGや四種混合ワクチンなどの主な定期予防接種を終了しますが、その途中で子どもを海外に帯同する場合でも、現地で接種を継続することが大切です。
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トラベラーズワクチンの接種
海外渡航者向けワクチン(「感染症の対策」参照)の子どもへの接種は大人に準拠して行いますが、大人と異なる小児への注意点を各ワクチンに関して示します。
①破傷風トキソイド
定期接種の「三種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風)」もしくは「四種混合ワクチン(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ)」で接種しているので、子どもには、破傷風トキソイドのみで追加接種をする必要はありません。
②A型肝炎ワクチン
A型肺炎は、子どもでは感染しても症状が軽いと考えられていますが、かかりやすい経口感染症であることから、A型肝炎ワクチンの接種を推奨します。主に1歳から接種します。
③狂犬病ワクチン
生活環境(とくに動物との接触頻度)や現地の医療事情により接種を検討します。子どもの方が動物に近寄っていく可能性が高いため、狂犬病ワクチンの接種が推奨されています。主に歩き始める1歳から接種します。
④日本脳炎ワクチン
日本では定期接種であり海外渡航の有無にかかわらず年齢・月齢相応に接種しましょう。とくにアジアの流行地域へ渡航する場合には、積極的に日本脳炎ワクチンの接種をお奨めしています。生後6ヶ月から接種が可能です。
⑤髄膜炎菌ワクチン
髄膜炎菌感染症は重篤な感染症です。アフリカに渡航する場合や先進国でも学校に入る思春期の子どもには接種が推奨されています。
⑥黄熱ワクチン
アフリカや南米の一部の国に渡航する小児には接種が推奨されます。生後9か月から接種が可能です。
⑦腸チフスワクチン
日本では未承認ワクチンですが、アフリカやアジアの一部の国に渡航する小児には接種が推奨されます。
5.東京医科大学病院渡航者医療センターについて
東京医科大学病院渡航者医療センターでは、海外渡航する家族の相談、予防接種や健康診断などを行っています。通常の外来の他にも、「オンラインによる予防接種相談」を行っていますので、ぜひご利用ください。
東京医科大学病院渡航者医療センターのHPはこちら
子どもの予防接種相談例
外来で受けることの多い相談をもとに、下記に例を示しました。参考にしてください。(2021年8月8日現在)
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ベトナム・ハノイに渡航する0歳8か月児
日本の予防接種スケジュールに従い、ヒブ、肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルス、四種混合、BCGワクチンを月齢相応の回数を接種しているか確認しました。また、日本脳炎ワクチンも生後6か月から接種が可能です。さらに、現地に滞在中は、ベトナムの予防接種スケジュールで接種を追加することにしました。
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シンガポールに渡航する3歳児
シンガポール所定の英文予防接種証明書の記載が必要です。麻しん・風しんと、おたふくかぜワクチンの2回目を接種して証明書の記載をしました。さらに、出発までの期間でA型肝炎ワクチンを接種しました。
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アメリカ・カリフォルニア州に渡航する5歳児
母子手帳の接種歴とアメリカの予防接種スケジュールと比較して、接種が足りてないワクチンを接種しました。足りていないワクチンは、日本で接種しても良いし、渡米後に接種しても良いと思います。
英文の予防接種証明書を記載しました。現地で通う幼稚園の所定書類(健康診断書や予防接種証明書)などが事前に入手できれば、事前に確認しましょう。
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タイ・バンコクに渡航する7歳児
過去の接種歴を母子手帳で確認のうえ、A型肝炎と狂犬病ワクチンなどを接種しました。
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ガーナ・アクラに渡航する6歳児
入国する際に義務となる黄熱ワクチンを接種しました。また、過去の接種歴を母子手帳で確認のうえ、A型肝炎、髄膜炎菌、狂犬病、腸チフスワクチンなどを接種しました。
以上、子どもを帯同して海外赴任する際のポイントを示しました。子どもと一緒に、皆さんが海外でも健康に過ごせる一助になれば幸いです。
※こちらは、2023年12月1日発行の「海外赴任ガイド2024年版」を元に作成しています。紹介内容が原文と異なる場合もあります。
寄稿
東京医科大学病院 渡航者医療センター医 福島 慎二先生
1999年に産業医科大学医学部を卒業し、産業医科大学病院や横浜労災病院/海外勤務健康
管理センターで勤務の後、2010年からは現職。専門は、渡航医学、感染症学、小児科学。