渡航前の医療
東南アジア圏で注意したい感染症とは?海外赴任前に特徴や症状をチェック
3年に及ぶコロナ禍を経て、私たちは改めて感染症の社会に及ぼす影響の大きさを痛感させられたと思います。感染症は個人だけではなく、社会にも影響を与えます。ここでは、東南アジア圏における特徴的なものについて既述します。今回は、関西医科大学総合医療センター 感染制御部&海外渡航者医療センター 三島 伸介 先生より寄稿いただきました。東南アジア圏に海外赴任される方はぜひご確認ください。
この記事で書かれていること
東南アジア圏における地域的特徴とは?
東南アジア圏は、熱帯気候に属し雨季と乾季があり、雨季にはスコールや突発的な雷雨が発生しやすい地域です。特に雨季は蚊の大量発生により、デングやマラリアなどの蚊媒介性疾患が大きな流行をみせるときがあります。都市部などは比較的衛生状態は保たれていますが、トイレ後の手洗い用にアルコール浸漬のウエットティッシュを携行しておきましょう。
東南アジア圏における熱帯感染症を5つ紹介
1.マラリア
- 世界三大感染症の一つで、今もなお人々の生命を脅かす寄生虫感染症です。きれいな水域を好むハマダラカ属の蚊が媒介するので、街中よりは郊外の自然の美しいところでより注意が必要です。突然の高熱で発症することが多く、高熱を出した翌日は解熱して元気になる場合がありますが、発熱と解熱を繰り返して数日中に意識障害を起こすなどして致死的となり得ます。発熱した場合は解熱剤などで様子を見ず、ただちに受診してマラリアの鑑別を受けるようにしましょう。状況に応じて予防内服薬投与も検討されます。
2.デング熱
- いわゆる「熱帯地方の風邪」です。ネッタイシマカが主な媒介動物で、ウイルス感染しても8割ほどが不顕性感染となるようですが、高熱で発症することが多く、それに伴う倦怠感や頭痛、筋肉痛などがみられます。目の奥が痛い(眼奥痛)といった特徴もあるようです。対症療法が主体で、多くは1週間程度で軽快しますが、時に出血傾向や血圧低下など重症化することがあります。マラリア同様、蚊に吸血されて感染するため、肌の露出部を減らしたり、白っぽい明るめの服装を着用したりするように心がけましょう。
3.腸チフス
- 名前からしてお腹を壊す病気と思われがちですが、チフス菌が血液中で増える菌血症が主な病態です。衛生状態の悪い食べ物や飲み物の摂取で感染します。時に40°Cを超える発熱をみますが、高熱の割に元気、というのが特徴の場合もあります。適切な抗菌薬がありますが、治療開始時期が遅れると重症化の恐れがあり注意が必要です。不活化ワクチン、生ワクチンがあるので、必要に応じてトラベルクリニックに相談しましょう。
4.狂犬病
- 日本とは異なり、東南アジア圏全域で注意が必要です。多くが犬による咬傷によりますが、全ての哺乳類が狂犬病ウイルスを持ち得るので、動物には近づかない触らないことが原則です。咬まれる前にワクチンを接種しておくことも可能です。また、咬まれた後に直ちに接種開始する方法もあります。
5.寄生虫感染症
蚊に吸血されて感染するリンパ系フィラリア症、土から経皮的に感染する各種線虫症、淡水域から経皮的に感染する住血吸虫症、淡水魚を生食して感染する吸虫症など、種々の寄生虫感染症があります。急性期に致死的とはならずとも、種々の健康被害をもたらし得るので、こちらについても充分な情報収集が大切です。
海外赴任先でかかりやすい感染症を知り対策準備をしよう!
海外では予期せぬことが発生するものです。様々な危険性を認識して、渡航前には渡航医学の専門家へご相談いただき、渡航前の健康管理について助言を受けてましょう。帰国後の体調不良も同様にご相談下さい。感染症は自分だけにとどまらず、周りの方への影響も懸念されますので、この記事を参考にして確認しておきましょう。
※こちらは、2023年12月1日発行の「海外赴任ガイド2024年版」を元に作成しています。紹介内容が原文と異なる場合もあります。