渡航前の医療
海外での感染症はどんなものがあるの?主な感染症の種類や症状、感染経路を解説
世界中で新型コロナウイル感染症が流行ったこともあり、海外生活での感染症について気になる方もいるのではないでしょうか。海外では日本で流行していない感染症もあり、とくに発展途上国では日常的に感染症が流行しています。海外の感染症の情報を知っておくことで、海外生活で予防に努められるでしょう。今回は海外の主な感染症と話題の感染症、その感染経路や症状まで解説していきます。
この記事で書かれていること
―寄稿―
東京医科大学病院
渡航者医療センター
特任教授
濱田 篤郎 先生
1981年に東京慈恵会医科大学卒業後、米国に留学し渡航医学を修得。2004年より海外勤務健康管理センター長を務めました。2010年より東京医科大学教授に着任し、海外勤務者や海外旅行者の診療にあたっています。2021年4月より現職。
海外での主な感染症と感染経路
海外でも発展途上国(途上国)では感染症が日常的に流行しており、日本からの渡航者が現地で発病するケースも数多くみられます。海外渡航者にリスクのある感染症を表①に示します。
表①海外渡航者にリスクのある感染症
主な感染経路 |
感染症 |
主な流行地域 |
経路感染 |
旅行者下痢症、A型肝炎 |
途上国全域 |
腸チフス |
途上国全域(とくに南アジア) |
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ポリオ |
南アジア、熱帯アフリカ |
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蚊が媒体 |
デング熱 |
東南アジア、南アジア、中南米 |
マラリア |
熱帯・亜熱帯地域(とくに熱帯アフリカ) |
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黄熱 |
熱帯アフリカ、南米 |
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日本脳炎 |
東アジア、東南アジア、南アジア |
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性行為感染 |
梅毒、HIV感染症 |
途上国全域 |
B型肝炎 |
途上国全域 |
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動物が媒体 |
狂犬病 |
途上国全域 |
患者から感染 |
結核、麻疹 |
途上国全域 |
髄膜炎菌 |
西アフリカ、中東 |
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新型コロナウイルス感染症 |
全世界 |
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皮膚・傷口から感染 |
レプトスピラ症、破傷風 |
途上国全域 |
流行地域の詳細は厚生労働省検疫所のホームページなどをご参照ください。
厚生労働省検疫所のホームページはこちら
以下に主要な感染症を解説します。
①経路感染症
飲食物から経口感染する旅行者下痢症やA型肝炎は、途上国であればいずれの地域でも高いリスクになります。経口感染症の予防には、ミネラルウォーターや煮沸した水を飲用すること、食品はなるたけ加熱したものを摂取することなどが重要なポイントです。また、外食をする場合は衛生状態の良い店を選ぶようにしましょう。
旅行者下痢症はとくに頻度が高く、1ヶ月間の途上国滞在で半数近くの渡航者が発病するという調査結果もあります。多くは大腸菌が原因で、命にかかわることは少ないのですが、かかってしまうと大変に辛いものです。もし下痢をおこしたら、水分や糖分の補給に努めましょう。これには経口補水液を用いると効果的です。下痢の回数が多い時は、下痢止めを服用してください。ただし、下痢とともに血便や高熱をきたしている場合は、下痢止めの使用を控え、早めに医療施設を受診しましょう。
②蚊が媒体する感染症
蚊が媒介する感染症は、滞在する地域によってリスクが異なります。デング熱は東南アジアや中南米で毎年雨期に流行が発生しており、日本人の感染例も数多く報告されています。マラリアの流行は、アジアや中南米では特定の地域に限定されており、日本人が行動する範囲での感染リスクは低くなります。その一方で、赤道周囲のアフリカ(タンザニア、ガーナなど)では都市や観光地でも感染リスクがあります。とくにアフリカでは重症化する熱帯熱マラリアが流行しており、注意が必要です。
デング熱やマラリアを予防するためには、蚊の吸血を防ぐことが最も大切です。蚊の発生する場所では長袖、長ズボンを着用して皮膚の露出を少なくするとともに、皮膚には昆虫忌避剤を塗布しましょう。屋内への蚊の侵入を防ぐためには、殺虫剤や蚊取り線香を用いてください。なお、デング熱を媒介するネッタイシマ蚊は昼間、マラリアを媒介するハマダラ蚊は夜間に吸血します。蚊の対策を実施する時間帯はそれぞれの流行状況に応じて調整しましょう。
③性行為感染症
性行為で感染する梅毒、尿道炎、B型肝炎、HIV感染症も、途上国では注意が必要です。また、途上国の医療施設の中には、医療器材の消毒が十分に行われてない施設もあり、院内感染としてB型肝炎やHIV感染症に罹患するリスクがあります。さらに、ピアスの穴開けやタトゥーなどの美容行為で感染するケースもあるので、ご注意ください。
④動物が媒介する感染症
狂犬病は途上国を中心に流行しており、発病すると致死率は100%に達します。海外の流行地域ではイヌなどの動物に接触しない注意をするとともに、動物に咬まれた場合は、狂犬病の発病を予防するための予防接種を迅速に受けましょう。
海外で話題の感染症とワクチン
世界各地で新しい感染症が流行しています。最新の流行情報は厚生労働省検疫所のホームページなどから入手してください。
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新型コロナウイルス感染症(COVID19)
2019年12月に中国から全世界に流行が拡大した感染症です。患者の飛沫などから感染し、発熱、咽頭痛、咳などの症状を起こします。ワクチン接種が広く行われるようになったため、重症化する人は少なくなりましたが、今後も冬などに流行を繰り返すと予想されます。
海外に滞在する際には、出国前に滞在国の日本大使館のホームページなどで流行状況を調べておきましょう。入国時にワクチン接種証明書や検査陰性証明書の提出を求める国もあり、外務省海外安全ホームページなどで確認してください。滞在中は必要な場面でマスクの着用や部屋の換気を行うとともに、発病した疑いがある時は、滞在国の方式で医療を受けるようにしてください。ワクチンの追加接種を実施する国もあり、その場合も滞在国の指示に従うようにしましょう。
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デング熱ワクチン
デング熱の生ワクチンが最近開発されています。日本では未承認で接種を受けられませんが、海外では接種を開始している国もあります。接種を受けると一定の感染予防効果がありますが、ワクチンによっては「過去に感染した人」だけを対象にした製剤もあります。接種をご希望の方は、担当医師から十分に説明を受けてください。
※こちらは、2023年12月1日発行の「海外赴任ガイド2024年版」を元に作成しています。紹介内容が原文と異なる場合もあります。