海外赴任の準備

中国へ渡航するに際して

この記事で書かれていること


はじめに

日中間交流の歴史に関する文献として後漢書の東夷伝が示す通り、少なくとも建武中元二年( 紀元57年) より両国間交流が認められ、2000年かあるいはそれ以上の長い交流歴があると推測されます。
現代におきましても両国間の交流は非常に活発であり、中国在留邦人数は15万人を越えています(平成24年10月1日現在)。

本項では、中国への渡航に際して注意すべき健康問題について記述していきます。

感染症

中国衛生部の発表によると、法定伝染病ではウイルス性肝炎が最も多く、毎年百数十万人の報告数が上がっています。そのうち、B型肝炎は100万人を超えており、 A型肝炎は3万人を超えています。在留形態に関わらず、邦人の感染例も発生しています。

いずれも有効なワクチンがあり、予防可能な疾患です。中国渡航に際しては最も重要なワクチンの一つと考えられます。

その他、多い順に挙げますと、肺結核、細菌性・アメーバ性赤痢、梅毒、麻疹、淋病となっています。地域によってはマラリアやデング熱も発生しています。また、狂犬病による死亡者は毎年2,000名前後発生しており、状況によってはワクチン接種を考慮すべきでしょう。

生活関連

特に駐在員で問題となりやすいのが、仕事がらみで外食機会が多くなる傾向にあることです。アルコール度数が50%前後のお酒(特に白酒!)を一気飲みするような機会も少なからず見受けられるようです。

また、日本ではあまり飲まなかったが、中国に駐在して以降は毎日飲むようになった、ということもよく耳にする話です。こうした社会的背景に加えて、運動不足に陥りやすい環境も手伝って、体脂肪率増加、脂質や糖質等の代謝異常、血圧上昇といった健康問題が懸念され、心血管疾患、脳血管疾患の要因となり得るだけでなく、元々あった持病が重症化するケースも見受けられます。
特に長期滞在に当たっては食・飲酒習慣に十分に注意し、ある程度の運動習慣を身につけるようにしましょう。

また、通勤では車に依存するケースが多いので、普段からエスカレーターではなく階段を利用するなどして、できるだけ多くの筋肉を使うというような意識を持ちましょう。

その他

その他の注意点としては、中国の交通事情を理解しておくことです。沿岸部の都市を中心として、自動車数の増加は著しいものがあります。自動車は左ハンドルで、自転車を含めて右側通行です。

また、自動車は交差点の信号の色に関わらず常に右折可能で、信号だけでなく車や自転車の動きにも十二分に気をつけなければなりません。近年では電気自転車が増加しています。電気自転車は走行時においてはほぼ無音で、しかも30km/h程度の結構な速度で移動しています。日暮れ以降でも無灯火であることが多く、通行の際には十分な注意が必要です。

以上、簡潔に述べてきましたが、海外では予期せぬことが発生するものです。様々な危険性を理解した上で渡航に臨んでいただければと思います。渡航に際しては渡航医学の専門家へご相談下さい。

関西医科大学附属 滝井病院 海外渡航者医療センター
助教 三島 伸介

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