海外滞在中の子供の教育
子どもの心と海外生活 ―健やかな心の成長を支えるためにー
海外への転勤や引っ越しは人生の大きなターニングポイントですが、そのぶんストレスの大きいライフイベントでもあります。赴任者自身だけでなく、帯同する家族もさまざまな生活の変化に直面します。家族にとっては積極的に自ら選んだ変化ではないので、突然の嵐のように、受け身で向き合わざるを得ないものです。
子どもたちには、保護者からの細やかなサポートが欠かせません。転校や言語の問題はもちろんですが、心の成長のためにはどのようなことに留意すると良いでしょうか。成長段階ごとに考えていきましょう。
公開日:2026年7月2日
この記事で書かれていること
乳児・幼児のころ
小さなお子さんを連れての国際移動は、特に気がかりが多いものです。離乳食は手に入るか、おむつは体の大きさに合ったものが買えるかなどの物資の問題から、毎日過ごせる遊び場はあるか、友だちはできるかしらといったことまで、悩みはつきません。
この時期のお子さんの視野や注意の向く範囲は、あまり広くありません。人との交流も始まったばかりです。基本的には家族と過ごす家が何よりの安全地帯なので、転居したばかりの時期は家の中を調え、生活リズムを作っていくことを最優先にします。水、食べ物、空気(湿気や乾燥)といった毎日欠かせないシンプルなものがこれまでと異なりますので、慣れていく時間を長めに取りましょう。
乳幼児期の子どもは五感を働かせてたくさんの刺激を吸収していくので、安全地帯が整ったら、少しずつ外へ出てみましょう。

スーパーでカートに乗れば、フルーツの匂いを嗅いだり、買い物に来るお客さんの顔を眺めたり、知らない言語が耳に入ってきたりします。あるイタリア人の女性は、乳児が大人より音声を聞き分ける力があることに注目し、アジア系のベビーシッターさんにあえて母国の言語で話しかけるよう依頼したそうです。また言語だけでなく、車の往来の音、鳥のさえずり、街並み、外に出た瞬間の気温差なども新しい刺激になるでしょう。
お子さんの表情から「びっくりしたね」「なんだろう?」「涼しいね」とことばにして返すことによって、感じたことを言語的に理解したり、語いを増やしたりすることにもつながります。また好きな遊びへの集中は、わくわくした気持ちの高揚をともなって豊かな想像力を育てるので、時間が許す範囲で楽しめると良いでしょう。
小学生のころ
学校は、起きている時間の半分を過ごす場所です。家族の元を離れ、集団生活が多くなり、教科の学習だけでなく社会生活やルールも学びます。
インターナショナルスクールや現地校など、家庭内と異なる言語を使う環境に入る場合、転校当初はその場にいるだけでも頭が疲れます。また学校には独特の文化や特徴があり、たとえ同じ国や地域の中で学校を変わる場合であっても、違いに直面して苦労することもあります。例えばあるお子さんは、転校先の学校が大きくて「迷路にいるみたい」と怖くなったそうです。
4年生ごろになると、思春期の入り口に立ちます。体の変化が始まり、急に視野が広がります。友だち関係は複雑になってきますし、勉強も抽象的な概念が入ってくるため、困難にぶつかりやすくなります。この時期に不安が強くなるお子さんもいますので、無理をしている様子が見られたら、安全地帯である家でのゆっくりした時間を多めに取ってください。

学校への連絡が必要な場合は、まずお子さんにそのことを伝えた上で学校へ情報共有をしましょう。学校から保護者に連絡があった場合も、お子さんの話や気持ちを聞きつつ、状況を整理して考えることをお勧めします。お子さんを中心に置くことで、当事者を置き去りにせず学校と家族が一緒に考える形になり、お互いの信頼関係のもとに何ができるか検討しうるからです。
中学・高校生のころ
思春期まっただ中の中学生は、心身ともに変貌の時期で、最も不安定である一方、急成長の時期でもあります。周りのことが見えてくると、自分の好みや価値観、倫理観との違いが気になったり許せなかったり、自信が一気になくなったりします。親子関係も小さな頃に比べて難しくなり、語気や態度が荒っぽくなることもあるかもしれません。子どもたちも自分の中に起きていることがよくわからず、モヤモヤ・イライラしがちです。
もしこの時期に転校が必要になった場合は、なるべく早いうちにその事実を伝え、お子さんがそれを受け止めて考えられるまで待ちましょう。友人関係や学習面もいっそう難しくなるので、お子さんの希望と、家族が対応できること・できないことのすり合わせが必要になります。
好きなものや興味の対象は、高校生になるころまでにはっきりしてくると思います。それらはお子さんが世界とつながるための扉、チャンネルとお考えください。扉は数が多ければいいというわけではありません。ときには大人の想像を超えた様相を見せるかもしれません。興味の追求はその先の進路選択にもつながるので、できるだけ本人のやり方を尊重します。

親目線で見ると頼りなかったり、呆れたりも多いでしょう。ですがお子さんがこの年齢になったら、保護者は意識して自分の立ち位置を変える必要があります。先に立って手を取り導くのは小学生まで。それ以降は横並びでお子さんの視点から周囲を見るように努め、次第に、後ろから試行錯誤するお子さんの姿を見守るようにしてはいかがでしょうか。

子どもの成長には個人差があり、「この年齢ではこれくらいできる」とは大まかな目安です。親は我が子を思うあまり、どうしてもできないことに目が行きがちですが、我が身を振り返ると苦手なことはいくつになっても苦手で、好きなこと・得意なことは、求められなくても助けを借りなくてもできてしまいますよね。
海外生活中は家族の距離が近くなりやすく、身内への甘えも相まって、家族がストレスの捌け口になってしまうこともあります。まずは生活リズム整えて大人がゆとりを持ち、子どもたちを見守り支えるエネルギーを保ちましょう。
海外では、日本にいるときのかゆいところに手が届くような豊かな支援はありません。もしお子さんに気になる様子が見えたり、自分自身に不調を感じたりすることがあれば、早めに周囲にヘルプを求め、必要に応じて専門家の戸を叩いてください。
海外での生活を通して、ご家族一人ひとりが豊かに成長されますことを応援しています。
– 執筆 –
吉田明 (臨床心理士/公認心理師 / 一社)ゆいグローバルネット理事)
家族に帯同し、複数の国と地域で生活した経験を活かして、教育と医療の領域で心理支援に携わる。
国際移動をする人々の輪を拡げ、個人と社会のウェルビーイングの増進につなげるために活動する非営利団体。各種イベントや講座の開催、ネットワークづくり、企業や団体への支援、研究を継続的に行っている。

