赴任先での生活
駐在同行する配偶者は働ける?働けない?~制度・企業規則・子育て…見えにくい就労の壁と向き合う~
海外赴任が決まったとき、多くの駐在員パートナーが気になるのが「現地で働けるのか」という問題です。
共働き世帯が一般的となり、キャリアを継続したいと考える人も少なくありません。ただ、駐在先の国によって配偶者の就労可否は異なります。家族ビザを所有していれば就労できる国もあれば、就労ビザへの切り替えが必要な国、そもそも就労が難しい国もあります。
「日本の企業に所属したまま、リモートワークするなら大丈夫だろう」と考える人もいますが、ビザや法制度の問題から、認められないケースもあります。
駐在員のパートナーが、「同行先に居住して働く」には、制度や企業の規則、家庭環境など様々な壁が存在します。
今回は、駐在員パートナーの就労をめぐる現実について考えてみたいと思います。
公開日:2026年6月30日
この記事で書かれていること
「働きたい」人は多いのに、「実際には働けない」という現実
私たち「一般社団法人キャリアコネクト」が2025年に実施したアンケートでは、駐在同行したパートナーの約6割が現在「専業主婦・主夫」として過ごしていることがわかりました。
また、駐在同行をきっかけに離職した人は約7割にのぼります。
一方で、今後の就労については89%が「働きたい」と回答しており、「働きたくない」のではなく、“働きたいけれど働けない” 状況に置かれていることが浮き彫りになりました。
つまり、多くの人は「働きたくない」のではなく、“働きたいのに働けない” 状況に置かれていると言えます。さらに、パートナーの 約9割がキャリアに関する不安や悩みを抱えている と回答しており、
「本帰国後に再就職できるか不安」
「社会とのつながりが失われることへの焦り」
といった声が多く寄せられました。
働くことは、収入を得るだけでなく、社会とのつながりや自己実現、自分らしさとも深く結びついています。
だからこそ、「働けない」という状況は、多くの駐在員パートナーにとって大きな悩みとなっているのです。
※2025年度のアンケート結果の詳細はこちらからご覧いただけます。
『共働き時代の駐在』アンケート結果公開!約30カ国の駐在員とパートナー563名が回答<プレスリリース> | Career Cafe Connect
「働けると思っていたのに…」制度やビザの壁
就労できない理由として多かったのが、ビザ制度の問題です。
アンケートにも、
「就労ビザの取得が難しい」
「リモートワークを検討したが、法制度上の問題で難しかった」
という声が複数寄せられました。
国によっては家族ビザを所有していれば就労できる場合もありますが、就労ビザの取得が必要な国もあります。また、現実的に就労ビザの取得は困難な国もあり、実際のハードルは決して低くありません。
最近では
「日本企業との雇用契約を維持したままリモートで働けば問題ない」
と考える人も少なくありません。

しかし、私たちの活動にご協力くださっている森・濱田松本法律事務所の五十嵐充弁護士によると、家族ビザのまま日本企業の業務をリモートで行った場合、国によっては不法就労と判断される可能性があるそうです。
給与が日本から支払われていても、「どこから給料を受け取るか」ではなく、「どこで労働しているか」が問題になる場合があるためです。
また、国によっては通信環境やデータ管理に関する規制もあり、日本国内と同じ感覚で業務を行うことには注意が必要です。
国内ではリモートワークも浸透していますが、居住する国が変わると、思わぬリスクにつながる可能性があります。
駐在員本人の会社のルールという、もう一つの壁
制度上は働ける国であっても、実際には別の壁があります。
それが、駐在員本人の勤務先の規則です。

また、私たちが2024年に駐在員パートナー向けに実施したアンケートでは、駐在員本人の勤務先の規則を理由に、就労できないと回答した人が82人にのぼりました。
「配偶者の会社が就労ビザ取得を認めていない」
「会社側が配偶者の就労を想定していない」
という声もありました。
また、「駐在員の企業では、配偶者が就労ビザへ切り替えて働くことを認めているか」
という質問では、
- 認めている 17%
- 認めていない 38%
- わからない 45%
という結果でした。
そもそも勤務先の制度を知らない人も多く、企業側から十分な情報提供が行われていない現状もうかがえます。
配偶者は会社の従業員ではありません。
しかし実務上は、駐在員本人への影響やビザ管理上のリスクを理由として、配偶者の就労を制限する企業も存在します。
結果として、「制度上は働ける国なのに、実質的には働けない」という状況が生まれているのです。
※2024年度のアンケート結果の詳細はこちらからご覧いただけます。
駐在同行家族の現状について【アンケート結果公開】「再就職できるか不安」「夫と対等でなくなった」235名が回答 | Career Cafe Connect
働ける場合にも存在する、「子育てとの両立」という壁
仮に制度上働けたとしても、子どもがいる家庭には、別の課題が存在します。
それが、子育てとの両立です。
実際に海外で働く駐在員パートナーからは、
「子どもの送迎や学校対応が想像以上に多かった」
「日本人学校は保護者の協力が前提の場面も多く、仕事との両立が大変だった」
という声も聞かれます。
特に海外では、
- 祖父母のサポートが受けにくい
- 病児保育が少ない
- 急な休校や学校行事への対応時の負荷が大きい
など、日本に住んでいる時以上に、家庭での負担が大きくなるケースもあります。
働ける制度があることと、実際に働き続けられることは別問題なのです。

働くことを選んだ人たちが見つけた、新しい可能性
様々な壁が存在することは事実ですが、現地就労に挑戦している人たちもいます。
一般社団法人キャリアコネクトの前身である、キャリアカフェ上海創設メンバーの大西愛美さんは、2度の駐在同行を経験した後、中国で現地就労を実現しました。
大西さんは、専業主婦として過ごしていた海外生活の中でも、コミュニティ活動などを通じて社会との接点を持ち続けました。その経験から「働くことは自分の幸せにつながる」と再認識したそうです。
就労を決意した際にはビザの問題に直面しました。最終的には夫が勤務先の人事部へ相談して社内規則を確認。就労ビザへの切り替えが実現したといいます。
また、興味深いのは、子育てとの両立についてです。
中国には、家事や育児をサポートする家政婦(アイさん)を雇用しやすい習慣があり、二児を育てる大西さんは、「アイさんに平日の家事や送迎を担ってもらうことで、子どもと過ごす時間の質が高まった」と話します。
海外だから必ずしも働きにくいとは限りません。その国ならではの制度や環境を活用することで、日本では実現できなかった働き方が見つかることもあります。
※Career Cafe Connectのnoteにて大西さんへのインタビュー記事を掲載しています。
駐在同行から現地就労へ―「わたし」を再び歩み出させるまで|Career Cafe Connect
駐在員パートナーの就労をめぐる問題は、「働ける国か、働けない国か」という単純なものではありません。
国ごとのビザ制度、リモートワークに対する法的な考え方、企業規則、そして子育てや家庭との両立。さまざまな要素が重なり合い、一人ひとり異なる状況を生み出しています。
だからこそ大切なのは、「現地に行ってから考える」のではなく、赴任前から情報を集めることです。
自分のキャリアをどう考えるのか。就労を希望するなら何が必要なのか。どのような選択肢があるのか。
夫婦で話し合いながら準備を進めることで、海外生活の可能性は大きく広がります。
働くことだけが正解ではありません。しかし、自分で選択できる状態をつくることは、将来の後悔や不安を減らす大きな力になるのではないでしょうか。
※配偶者の就労可否、ビザ、税務、労務、リモートワークの扱いは、国・地域・在留資格・勤務先規則、個別の就労形態等によって異なります。具体的な判断については、勤務先、現地当局、弁護士・税理士等の専門家へご確認ください。
– 寄稿 –
【一般社団法人キャリアコネクト】
一般社団法人キャリアコネクトは、「キャリア支援を通じて、企業も個人も持続的に成長できる社会づくり」を目指す非営利団体で、駐在員パートナーへのキャリア支援や、企業向け研修・講演を行っています。企業にとっても、駐在員パートナーのキャリア支援は、離職防止やグローバル人材の定着につながる重要なテーマです。また、個人向けのサービス 「Career Cafe Connect」では、セミナーやキャリア相談、イベントを通じて、海外経験を将来のキャリアにつなげるサポートを提供しています。
◆編集・ライティング 浅野 藤子、畑 史
◆監修 一般社団法人キャリアコネクト

