2014年後半から始まった原油価格の大幅な下落がマレーシア経済を大きく揺さぶっている。
それもそのはず、ASEAN諸国の中でも際立った経済成長を遂げてきたマレーシアだが、その財政は、国営石油会社ペトロナスからの収入に大きく依存している。マレーシア政府からみると、2012年度の歳入2080億リンギのうち、ペトロナスによる石油天然ガス関連の歳入が少なくとも770億リンギとなり、なんと歳入の37%を占めているからだ。その歳入は韓国経済でいうサムスン以上の存在となっている。
石油会社が太陽光発電?
夜空を背景に煌々とクアラルンプールの街を照らすペトロナス ツインタワー。そのペトロナス ツインタワーの展望室から見下ろすと、隣接するショッピングモールの屋上に太陽光発電のためのソーラーパネルが敷き詰められている様子がみえる。つまり、石油で潤ってきた会社のビルの上で、石油を使わなくて済む太陽光発電を行っているということだ。
石油会社が電気自動車を導入?
クアラルンプール近郊の路上で見かけた一風変わった車。車体にはPETRONAS、そして「100% ELECTRIC」。つまり、ガソリンを使わなくて済む電気自動車なのに石油会社がスポンサーとなっているということだ。2014年にスタートしたマレーシア初の電気自動車(EV)のカーシェアリング・システム「COSMOS」が運用する電気自動車で、2020年までに3,500台を導入する計画となっている。
背景にあるのはマレーシアのエネルギー国家戦略
石油会社がもつビルの屋上に設置されたソーラーパネル、そして、石油会社のロゴが入った電気自動車。石油会社であるはずのペトロナスを動かしているもの、それはマレーシアが長年をかけて目指しているエネルギーの多様化という国家戦略だ。マレーシアは石油天然ガスの産出国であるためエネルギー純輸出国となっているが、今後の国内エネルギー需要の増加と国産天然ガスの減産の可能性を踏まえ、エネルギーの安全/効率化/環境社会インパクトを軸としたエネルギー政策に取り組んでいる。
再生可能エネルギーに大きな期待
石油・ガス・石炭・水力についで、最も大きく期待されているエネルギー源が再生可能エネルギーだ。マレーシア政府は 2015 年までに 65MW、2020 年までに 190MW、2025 年までに 455MW、2030 年までに 1370MW と除々に太陽光発電の導入量を増やし、2050 年までに 18,700MW の太陽光発電を設置する目標を掲げている。その切り札となるのが2011年から開始された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT: Feed in Tariff)だ。ツインタワーの屋上に設置されたソーラーパネルも固定価格買い取り制度を利用してまかなわれている。
経済もエネルギーも「脱 石油依存」を目指す
マレーシアが途上国から中進国へと成長する中で、石油資源は歳入源としてもエネルギー源としても最大限に活用され経済成長の原動力の役目を果たしてきた。しかし、昨今のシェールガス革命やそれに伴う原油価格の大幅下落など外部環境の変化をみれば、石油に大きく依存したマレーシアの経済がはらむ危うさは誰の目から見ても明らかだ。
石油関連事業が「金のなる木」となっているうちに、次世代の「花形事業」を立ち上げていく、そのような国家的なライフサイクルの転換を実現するために残された時間はそれほど長くはないだろう。ツインタワーの足元で次世代のエネルギー源を模索する姿はそのシンボリックな存在に見える。はたして本当に「脱 石油依存」を果たせるのか、マレーシア経済力の真価が問われる日は近い。
<もっと知りたい方におススメの本>
マレーシアビジネスガイド
マレーシア ビジネスガイドの最新版!(2015年6月発行) マレーシアの経済、ビジネス環境を知るためには欠かせない一冊です。