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172. 生きる

カテゴリ 中東

「あなたはどこから来たのですか?」先日タクシーに乗った時、いつものようにドライバーのこの言葉から会話が始まった。
いつものとおり、「日本人です」と答えたところ、「え?」と言われた。
もう一度、「どこから来たの?」と聞かれたため、再度、「日本人です」と答えた。

すると、「いや、よく分からん。全然意味わからん。私が聞きたいのは、君がクルド系?トルコ系?バンダリ―系?ってことだよ(注:イランは多民族国家で、様々なルーツの人々が混住している)」という、斜め上、いや真後ろからボールが飛んできた。私はとっさに「ああ、クルドだよ、クルド」と返答した。

ドライバーはパッと目を輝かせ、「俺もクルドなんだよ、ウルミエの。君はどこのクルド?」と、自分のワールドに私を引き込んでいった。なるべくウルミエから遠いところをと、ゴルガーンのクルドと答えた。もちろんゼロとはいわないが、カスピ海南東岸のゴルガーンにクルド系の住民はほとんどいないと思うが。それでもドライバーはずんずん話を進めていく。
「やっぱりね。君のペルシア語のラフジェ(訛り)はクルド系のラフジェとそっくりに聞こえるんだ」

その後もかみ合っているんだかいないんだか分からない会話が続いた。
10年ぐらいテヘランに住んでいると言いながら、「(目的地の)ヴァリ-アスルスクウェア-とサアダートアーバードは近い?(注:両者の間は10キロ以上離れている。更に前者はテヘランの下町の入り口付近、後者は高級住宅街と、物質的な距離以上に離れている)」と聞いてきたため、私はクルド語訛りのペルシア語で、「さすがに近くはないと思うけど」と答えた。

「仕事は何?」と聞かれたので、「輸入業をしているのだ」と適当に答えると、「輸出入って何?」ときたため、「外国から買ったものをイランで売っているんだ」と答えると、「そっか、ならイランから物を外国に売っているんだね」ときた。

「昨日道で中国人のお客を乗せたんだ」というから、「どこで乗せたの?」と聞くと、「ヴァリーアスル」という。ヴァリーアスルはテヘランの南北を貫く25kmの道路だ。「今何してる?」「息してる」の類の問答に近い。

私がスマホで時間を確認したら、「ひょっとして君はクルド系じゃないね?タイ人か?だってスマホの文字がペルシア語じゃないもの」と聞かれた。本当のことを言おうかとも思ったが、また冒頭のやり取りに陥る可能性も大いにあったため、「僕がタイ人だったとして、それは君にとって重要なことかい?生きていて、こうして君と話している、それだけで十分じゃないか。だって人間だもの」と、相田みつをのようなことを呟くと、彼は妙に納得した様子で、それ以上この問題には突っ込まなかった。

目的地が近づいたところで、今度は私が彼に質問をすることになった。年齢や家族のことなどをひととおり聞いた後、「どこに住んでいるの?」と何気なく聞いてみた。
すると、「この車」と答えた。何でもタクシー以外に仕事がなく、家を借りるお金もないとのことだ。昨年11月下旬、ガソリン小売価格の値上げに起因するデモが発生した時、しばらくインターネットが遮断されてしまったが、その時のことを聞くと、大いに困ったと言っていた。そりゃそうだ。スマホと車が彼の商売道具であり、唯一の資産なのだから。

私が驚いたのは、その話を何事もないような様子で飄々と話している、彼のその振る舞いであった。あたかも昨日電車に乗り遅れたという話をするぐらい、軽いノリで教えたくれたのだ。これまでの頓珍漢なやり取りからは想像もつかない、壮絶な人生であるにも関わらずだ。

最後までクルド系という同朋意識を彼に持たせてしまって申し訳ないな、と思いつつ、私は目的地の水タバコ屋に到着した。そこの友人にこの出来事をかいつまんで説明すると、ひととおり大笑いした後、
「多分酒を飲んでいたんじゃないか?もしかすると薬物をやっていたのかも」とぽろっと指摘した。

何ということだ。死なずに目的地にたどり着いたことを、神に感謝した瞬間だった。



生きるって大変だ。



【ひとことペルシア語172】narahat shodam(ナーラーハット ショダム) 
:narahatは、心が落ち着かない状況を言い表す形容詞。私が知る限り、イランのみなさまが最も好んで使う単語。心が落ち着かない原因はほぼ何でもよく、例えば私がひどい目に遭って、その話を聞いた相手もnarahatになれば、勿論自分が直接いやな目に遭ってもnarahatになる。
ここではshodan(~になる)という動詞を1人称単数形で表示しているため、上記は「私が、落ち着かない/悲しい」という意味になる。




*この記事は個人の体験に基づいて記載されており、筆者の所属する組織の見解とは全く関係がありません。

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イランの首都テヘランに駐在中の筆者が見た、この国の模様を執筆するブログ。駐在先としてあまり聞かないと思われるイランの様子を肌で感じられるような記事を週に一回アップ中です!

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