いつからか、イランでもこの言葉が流行っている。日本語と同じく、英語がそのままペルシア語になっている。インスタ映え、はイランでも重要なキーワードで、壮大な自然を綺麗に映した写真がメディア上で飛び回っており、エコツーリズムという言葉が流行するのに一役買っているとも思う。
そんな、エコをテーマにした旅行先である”マティン・アーバードエコキャンプ”に、2019年の暮れ、家族や親しい友人と一緒に行ってきた。このキャンプ場は、広大に広がる沙漠の片隅に、キャラバンサライ(隊商宿)をモティーフにした建物の他、沙漠リゾートを体験できる宿泊施設として運営されている。テヘランからは車で約3時間。小さな子どもをつれての1泊旅行にはちょうどいいぐらいの距離だ。
メインの建物の他、バンガロー、テントなどに泊まることが出来る。砂漠の夜は冷えるため、私たちはバンガローに泊まることにした。敷地の中にはダチョウも飼育されていた。2歳になったばかりの息子を連れて行くと、途中までは興味津々だったが、近くなるとあまりの大きさにおっかなびっくりの様子だった。日本人が沙漠でイメージするラクダももちろんおり、妻や友人はその背中で砂漠の中を揺られていた。私は横からついていったのだが、脚が長いため思ったより速度が速く、石や灌木が生えている地面に足を取られずについていくのが精いっぱいだった。
私が最も楽しみにしていたのが、天体観測。専門的な望遠鏡があるわけではなく、裸眼で空を見上げるだけだが、沙漠は遮るものがないため、きっと星がよく見えるだろうと期待していた。出発は夜の9時ごろ。夕食後に出発場所に行くと、トラクターに幌を取り付けた”ミニバス”が、私たちを待っていた。私の前に抱かれた息子は、うつらうつらし始めていた。沙漠の砂に取られないようにするためには、これくらいの大きく太いタイヤでないとだめなのは分かっていたが、銀河鉄道の夜を下敷きにした抒情的な私の気分は、エンジンの爆音にかき消されてしまった。
その幌に揺られてしばらくいくと、エコキャンプからも少し離れた、真っ暗な場所に到着した。イランは日本の4.4倍の面積でありながら、人口は8,000万人程度しかおらず、そもそも国土の多くが沙漠や山岳地帯で、こうして手間を掛けずに人里離れた場所にいくことが出来る。
案内してくれたドライバーは、目の前にそそり立つ砂の山を指さし、「ここの上からだと星がよく見える」と教えてくれた。暗くてよく見えないが、きっと3階建て位の高さはありそうな砂の壁だ。私たちは靴を脱ぎ、その壁を登ることにした。寝ている息子を起こさないよう登るのが、私には結構な重労働だった。
登った砂の壁の上は、平らな空間。少しくぼんでいるから、寝転べば周囲の人工光の影響も受けず、空を見られることになる。だからドライバーは、この壁の上の方が星が見やすいと言ったのだ。広がっているのは、ただ満天の星空。コロナウイルスで思うように外出ができないいま、瞼に焼き付くように残っている星空が、無性に懐かしい。
と、ここまで書いて、どこが「エコ」なのか、ただ私が感傷に浸っているだけじゃないか、と思われた方もいらっしゃるのではないか。
実は、そうなのだ。何がそうなのか、といえば、「エコ」ついてである。私はてっきり、例えばごみを極力出さないような仕組みで運営されている、とか、提供される料理は原則自給自足だ、とか、電気はソーラーパネルによる太陽光発電です、とか、そういった運営がなされているものかと思った。確かに他の観光地に比べて、敷地内にはきっちりごみ箱が用意されていたのは目についたし、果樹園はあったが、それ以外は他の宿泊地と全く変わらない。
後にホームページ(https://irandoostan.com/matinabad-desert-eco-camp/)で確認したら、沙漠という自然を体験できること、また、野菜等を有機栽培(オルガニック、と呼ばれる)で育てていることが、このエコキャンプのエコたる所以らしい。
要は、エコツーリズムという言葉が若干先を行ってしまったという訳だ。だからといって、寝そべって見た星空や、とてもきれいに保たれていたバンガローの価値が下がるわけでなない。コロナが開けたら、今度は沙漠で沈む夕日をみながら、安楽椅子に腰かけて『深夜特急』でも読んでみたい。でもエコを目指すなら、もう少し色々な取り組みもできるのではないかとも、思った次第だった。
【ひとことペルシア語182】andazegiri kardan(アンダーゼギーリー キャルダン)
:採寸するという意味の動詞。服から部屋のサイズに合うカーペットまで、幅広く使えます。
*この記事は個人の体験に基づいて記載されており、筆者の所属する組織の見解とは全く関係がありません。
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