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180. あの日常

カテゴリ 中東

”お茶、空いてたから入れといたよ”
”今日はマンゴーはないんだ、ナツメヤシならあるけどどうする?”
”今度日本に帰ったら、この間持ってきてくれたキットカットをまた買ってきてくれ。今度はお金を払うから”
私が行きつけのガフヴェハーネ(水タバコ屋)の席に着くなり、どこからか聞こえてくるこんな声。あの日々は夢だったのだろうか。

コロナウイルスの感者が他の国に先駆けてイランで爆発してはや2か月。私も日本に一時退避をしている。
この間、イラン政府も、人々も、あの手この手で感染拡大防止策を講じてきたと聞いている。例えば例年であれば人々が北に南に東に西に動くイランの新年があったが、今年は政府が都市間の車の移動を禁止し、またほとんどの店を閉じたから、街はゴーストタウンの様だったらしい。それが禁止される前に、地方にある母親の田舎に帰省した知人も1カ月以上そこに留まらざるを得なかったとのこと。また私が退避する直前、知人の家に挨拶にだけ出かけたら、ビニール手袋をした手に消毒液を持った友人が家から出てたこともあった。結婚式を予定していた別の友人も、キャンセルせざるを得なかったとのこと。

それでも、日本と同じく都市封鎖には踏み込んでいないようだ。本当の理由は知る由もないが、我が国と同じできっと法的整備が追い付いていなかったり、様々な方面への配慮の産物だろう。ただ、イラン政府が40数年ぶりにIMFへ資金援助の申請をしたというニュースを聞いた時は、この政府も今回の事態を深刻に捉えているいることがよく理解できた。

日本でもその他の世界でも深刻な問題となっている、感染拡大抑制と経済活動の継続。イランでも悩みの種だ。イランにいる知人と電話した時、日本では給付金の支払い対象や金額で調整が続いている、と
伝えたら、「いくらもらえるんだい?こっちの政府は各世帯に600,000IRRもくれたさ」と、自嘲気味に語っていた。600,000IRRとは、ゼロの金額が多いが、約500円だ。テヘランなら一回レストランで食事をしたらなくなってしまう金額だ。

この1週間、新規の感染者数が落ち着いていることもあり、感染危険レベルが低いとみなされるような業種(スーパーマーケットや商店)は、営業を再開させたとのこと。ただ、感染リスクが高いとされる水タバコ屋やチャイハネなどは、まだ開くことが出来ないのだそうだ。情勢を考えれば仕方ないものの、電話口のガフヴェハーネ店主からは、ため息が聞こえてきた。

イランのサービス業・飲食業は、特に都市部を中心に多くの雇用を生んでいる。例えば高級レストランに行けば、ドアを開ける係、人を案内する係、注文を取る係、料理を作る係、料理を持ってくる係、料理を下げる係と、完全分業制である。件の水タバコ屋も、住み込みの給仕係を4人ほど抱えていた。その多くが田舎から出てきたばかりの若者である。給料額を聞いてみると、月額19,000,000IRR(約15,000円)だという。テヘランだとドミトリーにすめばギリギリ何とかなるぐらいの決して高くない金額だが、この水タバコ屋は地下の従業員スペースで寝泊まりが可能で、住居費は実質ただである。また、給仕係の一人に聞いたところによれば、以前働いていた縫製工場では出来高払いで給与額に波があったから、それに比べれば毎月決まった金額をもらえる水タバコ屋はとても恵まれている、ということだった。

そんな彼らは、10時の開店から23:30の閉店まで休憩時間を除いて働きづめである。彼らにとってのテヘランは、水タバコ屋なのである。だから客とも仲良くなり、どこまでも対等にこちらの話を聞いてくれる。

でもそんな彼らも働き場所を失ってしまった。水タバコ屋の店主によれば、給仕係はみな致し方なくそれぞれの田舎に帰てもらえざるを得なかったとのこと。電話口でもそのやるせなさが伝わってくる。

どうしようもないこの状況、かつて現実だった日常が、本当に早く戻ってくることを祈るしかない。



【ひとことペルシア語180】chareyi nist.(チャーレイー ニースト)
:”chare”は、「方策」という意味。それがない(”nist”)ということで、「仕方ない」といういみ。今回の事態は、仕方ない、と言い聞かせるしかないのだろうか。


*この記事は個人の体験に基づいて記載されており、筆者の所属する組織の見解とは全く関係がありません。

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http://blog.livedoor.jp/mizutani67/

イランの首都テヘランに駐在中の筆者が見た、この国の模様を執筆するブログ。駐在先としてあまり聞かないと思われるイランの様子を肌で感じられるような記事を週に一回アップ中です!

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