滋賀県の湖南市に近江学園という複合的な施設があります。知的障害児等の教育や訓練、そして医療を行う場です。この施設が始まったのは1946年といますから、当時としては先駆的なできごとです。この運動に関わったのは糸賀一雄、池田太郎、田村一二という人々です。この三人の精神は、「この子らを世の光に」というフレーズに表れています。「この子らに世の光を」をいうのが当初のモットーだったようです。彼らは「を」と「に」の使い分けによって意味は全く違うこと、「に」を使うとこの子どもたちは哀れみを求める対象となることに気がついていきます。「を」を使うと子どもは回りの人々に、広く社会にたいして自分の生命という光を放つ素晴らしい人格ということになる、と主張したのです。光輝く存在であるということを「この子らを世の光にする」ということばに込め、それを宣言したのです。糸賀一雄はその著書のなかで、その思想を語ります。「この子らはどんな重い障害をもっていても、だれと取り替えることもできない個性的な自己実現をしているものである。人間と生まれて、その人なりに人間となっていくのである。その自己実現こそが創造であり生産である。私たちの願いは、重症な障害をもったこの子たちも立派な生産者であるということを、認め合える社会をつくろうということである。『この子らに世の光を』あててやろうという哀れみの政策を求めているのではなく、この子らが自ら輝く素材そのものであるから、いよいよ磨きをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。(「糸賀一雄著作集III」より引用)「を」と「に」という一字から生まれる文章の意味は、天と地ほどの違いがあります。 続きを読む