「中沢家の人々」という落語をきいたことあるでしょうか。三遊亭圓歌、もとの名を三遊亭歌奴という人の作です。自分の家族や周りの者を持ち上げたり落としたり、風刺したりするまことに馬鹿馬鹿しくも陽気な内容です。この馬鹿馬鹿しさが笑いのネタになるのですから、落語というのは不思議な話芸術です。圓歌はこの演題の中でいろいろなギャグも飛ばすのですが、「今私が言ったことで笑えない人が家に帰ってから笑うようでは落語もおしまいだ、、」という台詞があります。とわいっても、落語がおしまいになることありません。家で「ああそうか、そんな意味か、、、」といって笑ってもよいのです。なにも寄席で笑わなくとも、家で最後に一人で一番よく笑う、これも落語の楽しみ方です。笑いの別な代表として漫画もあげられます。もともと漫画は政治漫画から始まったといわれます。日本では政治漫画のはしりは「のらくろ」という作品です。昭和6年から始まりました。のらくろという犬の新兵が11年もかかって少佐に昇進する話です。いまでいえば、うだつのあがらない兵士です。のらくろを通して軍隊をやんわりと風刺するのです。しかし、当時は漫画の主人公に軍隊という世界のリアリズムを語らせると、発禁処分になるような時代です。そんなわけで軍からあまり評判のよくなかったのらくろは、「のらりくらり」と振舞いながらも、まじめに勤めあげることで笑いをそそるのです。どうしても他人に説得されまいとする政治家を説得することは困難です。ならば笑いのめしてやろうではないか、というのが風刺漫画です。今やこれがなぜか少なくなってはいないでしょうか。人を笑う悪意や人から笑われる警戒心から解放された笑い、飾り気のない笑いが大人にも子どもにも蔓延しすぎてはいないでしょうか。電車の中で大の男が分厚い漫画を広げているのみるにつけ、馬鹿馬鹿しく自嘲するとか苦笑するという瞬間が少なくなっているように思われます。 続きを読む