先日2025年7月4日(金)にOne Big Beautiful Bill(通称OBBB。以下OBBBと表記。)が成立しました。
OBBBは色々な法改正を含むのですが、その中に多くの税制改正も含まれています。
こちらの記事では、個人所得税の観点からOBBBによる改正点を解説します。
本投稿では全ての改正点を網羅しておりませんので予めご了承ください。
今回の記事では、筆者の独断により納税者への影響度によって上から順に改正される項目を並べています。
全てを読むのは大変だと思いますので、気になる点については目次から各項目へジャンプしてください。
重要度★★★ 税率表は据え置きで確定2017年に施行されたTax Cut and Job Act(通称TCJA。以下TCJAと表記。)で変更された税率表が、OBBBにより今後も維持されることになりました。
TCJAは時限立法となっており、今年延長がされない場合、2026年から以前の税率表に戻ることとなっていました。
(今回の税制改正が無かった場合、最高税率が39.6%に変更される予定でした。)
しかし、今回の改正で現在の税率表が恒久的なものとなります。
結果としては、昨年からの変更が無いということになりますので、税額計算への大きな影響は無いと考えられます。
Standard deductionの金額が変更 + Senior Bonusの追加 + Personal exemptionの恒久的廃止2025年分(2026年4月申告期限分)からStandard deductionの金額が下記の通り変更されることになりました。
Single: $15,750
MFJ: $31,500
Head of Household: $23,625
(参考:2024年分Standard deduction)
Single: $14,600
MFJ: $29,200
Head of Household: $21,900
Extra deduction単身者で65歳以上または視覚障害をお持ちの方は、一人あたり追加で$2,000の控除が追加されます。
(65歳以上かつ視覚障害をお持ちの場合は、一人あたり$4,000の控除が追加されます。)
夫婦合算の場合は、一人当たり追加で$1,600の控除が追加されます。
Senior Bonus2025年から2028年までの間、65歳以上の納税者に一人あたり$6,000の控除が追加されることになりました。
こちらの控除は所得制限が定められており、単身者の場合$75,000以上、夫婦合算の場合$150,000以上の調整後総収入(MAGI)をお持ちの納税者は、控除額が収入額によって逓減します。
調整後総収入が、単身者$175,000、夫婦合算で$250,000を超えると、このSenior Bonusは0となります。
夫婦二人とも65歳以上で、調整後総収入が$150,000未満の場合、夫婦合算申告を選択すると控除額は以下の通りとなります。
Standard deduction $31,500 + Extra deduction $3,200 + Senior Bonus $12,000 = Total deduction $46,700
Seniorの方々には非常に嬉しい改正内容ではないでしょうか。
“Personal exemption”が廃止今回の改正により”Personal exemption”が完全に廃止されることになりました。
こちらのPersonal exemptionですが、TCJA施行時に2025年まで一時的に廃止となっていましたが、今回の改正で恒久的に廃止となりました。
2017年の申告では、Personal exemptionとして一人あたり$4,050を控除することができていました。(その代わり、Standard deductionは夫婦合算申告で$12,700と低い金額になっていました。)
夫婦合算申告で子供がいない場合は、Standard deductionとPersonal exemptionを合計して、$20,800を控除することができました。
(おまけ)Standard deductionとItemized deductionとは?アメリカの確定申告書では、収入から一定額の控除又は納税者の一年間の支出の中から特定の項目の合計額を控除することができます。
「一定額の控除」をStandard deductionと呼びます。そして、「特定の項目の合計額の控除」をItemized deductionと呼びます。
Standard deductionの金額は、申告形態によって決まっており、誰でも同じ金額を控除することができます。
単身者の場合、2025年は$15,750を収入から控除することができます。
仮に単身者の収入が$100,000だった場合、Standard deduction $15,750を控除した$84,250が課税所得となります。
このStandard deductionは年によって金額が調整されるので、申告する年によって金額が異なりますのでご注意ください。
Itemized deductionとは、税法によって定められた特定の支出合計額を控除することができます。
代表的な支出は「寄付金」、「州・地方税」、「医療費」などが挙げられます。
(具体的な内容は下記リンク先をご参照ください。)
この特定の支出の合計額が、Standard deductionの金額を上回る時に、Itemized deductionを選択することができます。
上記例で考えると、単身者の特定の支出(寄付金や州税の支出)が$15,750を上回っていた場合、Standard deductionではなくItemized deductionを適用することになります。
この単身者の一年間の特定の支出が$18,000だった場合、課税所得の計算は以下の通りとなります。
収入$100,000 – Itemized deduction $18,000 = 課税所得 $82,000
この場合、課税所得が$82,000となり、Standard deductionを適用した時よりも税額を抑えることができるようになります。
IRSの発表によると、約90%の納税者がStandard deductionを適用しており、Itemized deductionを適用している納税者の方が圧倒的に少ないようです。
各項目に金額の制限等が設けられているため、実態は富裕層が適用しているケースが多いと考えられます。
SALT(州税・地方税)控除限度額の増額州税・地方税の控除限度額が変更となりました。こちらはItemized deductionの項目になります。
州税・地方税による控除限度額が現在の$10,000から$40,000に引き上げられました。
夫婦合算申告のStandard deductionが$31,500となっておりますが、州税・地方税の高い地域にお住いの方はItemized deductionを選択することによって税額を抑えられる可能性があります。
2025年の申告分では$40,000なっていますが、2029年まで毎年1%増額していきます。そのため、2026年分は$40,400が上限額となります。
このSALT控除限度額は2030年に$10,000に戻ることになっています。将来、期限が近づいたら再度改正になる可能性があります。
SALT控除は所得制限が定められており、調整後総収入が夫婦合算申告で$500,000を超えると、収入額に応じて逓減します。
ただし、控除額の下限は$10,000となっております。
こちらの所得制限も2029年まで1%ずつ増額することになっています。そのため、2026年分の所得制限は$505,000となります。
SALT控除の計算例として、夫婦合算申告で州税・地方税を合わせて$40,000支払ったケースを考えてきます。
収入 $200,000 – Itemized deduction $40,000 = 課税所得 $160,000
このケースで仮にStandard deductionを選択した場合は、下記の通りとなります。
収入 $200,000 – Standard deduction $31,500 = 課税所得 $168,500
このケースではItemized deductionを選択した方が税額が有利になるため、Itemized deductionを適用します。
改正前は$10,000と上限が定められていたため、州税・地方税の控除を取れる納税者は多くありませんでした。
今回の改正により控除上限額が大幅に増額されたため、高税率州に住む納税者には喜ばしい改正になったと思います。
赴任関連費用(引っ越し費用等)の取扱TCJAにより課税対象となった会社が負担する赴任関連費用ですが、今回の改正において取り扱いの変更はありませんでした。
引き続き、赴任に伴う引っ越し代は課税の対象となります。
在米日系企業の中には、赴任者の引っ越し代の課税処理を行っていないところがあるようです。
こちらは課税漏れを指摘される可能性もあるので、まだ課税処理していない企業は早急に対応することをお勧めします。
Child Tax Credit2025年分からChild Tax Creditが$2,000から$2,200に増額となりました。条件は以前と同じで、SSNをお持ちの扶養子女が対象となります。
また夫婦合算申告の場合、納税者と配偶者の両名とも有効なSSNが必要となります。
Child Tax Creditは所得制限が設けられており、夫婦合算申告の場合調整後総収入が$400,000を超える場合、収入額に応じて逓減します。
SSNを取得できない扶養子女につきましては、以前と同様にITINを取得することによって$500の控除を受けることができます。
Deduction for Tipped income2025年から2028年の4年間は、チップ収入の$25,000までを控除できることになりました。
この控除は所得制限が定められており、それぞれ調整後総収入が単身者は$150,000、夫婦合算は$300,000を超えると控除額が逓減します。
(Tip収入の控除は既婚者の場合、夫婦合算申告のみが控除を受けられることになっています。)
こちらはトランプ大統領の選挙公約が実現したものとなります。チップ収入を得ている方には嬉しい内容の改正ですね。
Deduction for Overtime2025年から2028年の4年間は、残業代(通常の賃金に上乗せされる分のみ)を$12,500(夫婦合算は$25,000)まで控除できることになりました。
この控除は所得制限が定められており、それぞれ調整後総収入が単身者は$150,000、夫婦合算は$300,000を超えると控除額が逓減します。
控除できる金額は、残業した時間に稼いだ金額全額ではなく、あくまで残業代として上乗せされる金額のみが控除の対象となりますので注意が必要です。
例)時給$20の方が1時間残業し、残業分として$30 ($20 * 1.5)を受け取った場合、控除の対象となるのは上乗せ分の$10のみとなります。
また、州法等によって定められた上乗せ分等は、控除の対象外となります。
こちらの控除もTipの控除と同様に、既婚者の場合は夫婦合算申告のみが控除を受けることが可能になります。夫婦個別申告では、この控除を受けられませんのでご注意ください。
また、Social SecurityやMedicare、州税は控除の対象となりません。
重要度★★ Car loan interest deduction2025年から2028年の4年間、自動車ローンの支払い利子を$10,000まで所得控除できることになりました。
ただし、控除の対象となるには以下の条件を満たす必要があります。
2025年1月1日以降に購入したものであること 新車のみ(中古車は対象外) アメリカ国内で組み立てられたもののみ(輸入車は対象外) 個人での使用が前提であること(業務用は対象外)こちらの控除は所得制限が設けられており、調整後総収入が単身者の場合$100,000、夫婦合算申告の場合$200,000を超えると、超過金額$1,000ごとに$200控除額が減額されます。
こちらの控除を利用するには、購入しようとする車がアメリカ国内で組み立てられたものかを確認する必要があります。
控除を検討されている方は、購入しようとしている車が条件に合うか必ずご確認ください。
Charitable contribution(寄付金控除)今まではCharitable contribution(寄付金控除)を行うには、Itemized deductionを選択する必要がありました。
今回の改正により、Standard deductionを選択する納税者も、単身者は$1,000、夫婦合算申告は$2,000まで所得控除することができるようになりました。
Itemized deductionを行わずに控除する寄付は、現金による寄付のみが対象となります。
引き続き、Itemized deductionで寄付金控除を取る場合は、調整後総収入の0.5%以上が控除の対象となります。
例)調整後総収入が$200,000の場合、$1,000 (200,000 * 0.5%) を超える寄付金の金額が寄付金控除となります。
寄付金控除の対象となる団体等に寄付をされる場合は、今後寄付金控除を受けやすくなります。
SSN requirement for American Opportunity and Lifetime Learning Credits2026年以降、大学の学費等が控除の対象となる”American Opportunity”と”Lifetime Learning Credits”の控除を受ける際は、納税者・配偶者(夫婦合算の場合)・学費の対象となる子女のSSNが必要となります。
駐在員のお子様でITINをお持ちの場合2025年分までは控除の対象となりますが、2026年以降は控除の対象外となりますのでご注意ください。
重要度★ Wagering (Gambling) Loss2026年以降、Gambling Lossの取扱が変更されることになりました。
ギャンブルによる負け金は勝ち金を上限としてItemized deductionの控除対象だったのですが、改正後この上限金額が90%に制限されることになりました。
例)勝ち金$50,000、負け金$50,000の場合、$45,000のみが控除の対象となります。
また、控除できなかった分については、繰り越しもできませんのでご注意ください。
アメリカでよくカジノ等に行く方は、ギャンブルで獲得した賞金や掛け金等はしっかりと記録しておくことをお勧めいたします。
Bicycle commuting reimbursementTCJA以前は月額$20まで自電車通勤に対しての支給は非課税となっていましたが、TCJA以降は課税扱いとなりました。
今回の改正により、課税扱いが恒久的なものとなりました。
Remittance transfer2026年以降、現金やマネーオーダーなどを使用した、アメリカから国外への総金に対して1%の課税が課されることになりました。
この送金課税は、アメリカの銀行等から行われるものや、アメリカの銀行等から発行されるデビットカードを使用しての送金等に対しては課税の対象となりません。
また、仮想通貨等の送金も課税の対象となりません。
Trump accounts2025年から2028年までの間に生まれた子供に対して、”Trump Accounts”の設定ができるようになりました。
(あまり詳細な情報は発表されていませんが、Roth IRAと同じような扱いになるそうです。)
口座を設定すると、それぞれの子供に対して、まず政府から$1,000がTrump Accountsの口座に入金されます。
こちらの口座に対して、毎年保護者又は適格雇用者から$5,000まで積み立てることが可能です。
口座からの引き出しは、対象のお子様が18歳に達して以降、高等教育への支払い等に使用することができます。
Direct filingIRSが納税者のために設けている”Direct filing”ですが、今後無くなる可能性があります。
今回の改正案の原案では廃止されることが含まれていましたが、最終法案では一応継続となり今後については調査されることになりました。
多くの納税者にとって無償で申告書を完了できることは良かったのですが、今後は無くなってしまうかもしれません。
まとめOBBB の改正点は所得制限や適用期間など細かな条件が多く、納税者ごとに最適な節税策は異なります。
ご自身やご家族の状況に合わせたシミュレーションを行い、早めに対応方針を検討しましょう。
One Big Beautiful Billの本文はこちらからご確認いただけます。
OBBB の詳細規定は今後 IRS 通達等で追加ガイダンスが出る可能性があります。
本記事は 2025 年 7 月 29 日時点の公表情報に基づいており、最新情報は必ず公式資料をご確認ください。
本記事の内容は一般的な情報提供であり、税務アドバイスを目的としたものではありません。
具体的な適用可否は必ず税務専門家へご相談ください。
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