早いもので2024年も三分の二が終わってしまいました。あと四か月ありますが、正月に決めたベンチプレスの目標重量までたどり着かなそうな予感がしています。ベンチプレスの重量を伸ばすのは、税法を読むことと同じくらい難しいですね。
皆さんの新年の目標到達具合はいかがでしょうか??
さて、私のベンチプレスはさておき、いよいよアメリカ大統領選挙も大詰めとなって参りました。
先日、大統領選挙の影響について記事を書きましたが、更に色々と情報も出てきていますので深堀していこうと思います。
今日のお題は「未実現利益への課税」です。
民主党の大統領候補であるKamala Harris氏ですが、大統領選の公約としてBiden大統領の政策を引き継ぐ旨を発表しています。このBiden大統領の政策の中に”Billionaire Minimum Tax”という税制案が含まれており、富裕層への課税強化を狙っています。
こちらの政策は$100 million以上の資産を持つ富裕層に対し課税強化し、公平な課税を行うことを目的にしています。アメリカの富裕層は色々な法律の抜け穴を使うことで税金から逃れることが多いのですが、この抜け穴を塞いでしまおうというわけです。
$100million(日本円で約150億円)の資産を有する富裕層への課税を強化するというアイデア自体は理解できるのですが、その提案されている課税方法の実現性がかなり低いのではと考えられます。
そのアイデアが「未実現利益への課税」です。
では、この「未実現利益への課税」について詳しく見ていきましょう。
未実現利益とは?未実現利益とは何かを考えていきたいと思います。わかりやすくするために、まず未実現利益の反対の概念となる「実現利益」について考えてみたいと思います。
例として、架空の私の友人Aさんに登場してもらいたいと思います。
Aさんは非常に優れたエンジニアで、アメリカでPineapple, Inc.を創業しました。AさんはPinephoneを世に送り出し、世界中で爆発的な売り上げを記録しました。Pineapple, Inc.での成功を果たし、現在は経営から身を引き悠々自適な生活を送っています。
AさんはPineapple, Inc.の株式を100%保有しているとします。
AさんがPineapple, Inc.の株式の一部を売却する場合、譲渡金額からBasis(ここでは株式の簿価と考えてください)を引いた金額が「実現利益」として課税の対象となります。
仮にこの売却価額が$100,000でBasisが$10,000の場合、$90,000 (100,000 – 10,000)が課税の対象となります。
この考えは、現在の税法でも同じため特に違和感はないと思います。
さて、今度は「未実現利益」とは何かを見ていきましょう。
例に出てきたAさんですが、経営からは身を引いていますが100%の株式を保有しています。Pineapple, Inc.は現在も経営が好調で、仮に株式を売却した場合かなりの評価額になることが見込まれます。
未実現利益を考えるために、Pineapple, Inc.の情報を以下の通りに整理しました。
発行済み株式数:100
Aさんの保有する株式数:100
株式のBasis(簿価):$10,000 (1株$100 * 100株)
現在の株式(100%)評価額:$1,000,000
AさんはPineapple, Inc.の株式を売るつもりはありません。毎年、会社から配当をもらい隠居生活を楽しむつもりでいます。
しかし、「未実現利益への課税」が始まってしまうと、Aさんは株式を売却もしていないのに税金を払わなければいけないことになってしまいます。
Billionaire Minimum Taxが施行された場合、Aさんの課税対象額は以下の通り計算されます。
$1,000,000(株式の評価額) – $10,000(株式の簿価) = $990,000
税率が25%の場合、未実現利益への課税は以下の通りとなります。
$990,000 * 25% = $247,500
Aさんは何もしていないのに、これだけの税額負担が発生してしまうことになります。「未実現」の状態なので、何も売却していません。つまり、現金を手にしたわけではありません。
こうなってしまうと、AさんはPineapple, Inc.の株式を実際に売却して納税資金を捻出するか、他の資産を売却して納税資金を用意しなければいけないことになるでしょう。
Billionaire Minimum Taxは実現するのか?残念ながら私は上院議員でも下院議員でもないので確実なことは申し上げられないのですが、このBillionaire Minimum Taxの実現はかなり難しいのではないかと考えています。
大統領がこの政策を提案することは可能ですが、議会がこの政策を可決するかは全くの未知数です。まず、共和党は全員反対すると思いますし、民主党もこの政策に賛成するのは難しいのではと考えます。
この政策が仮に実現してしまうと、納税資金を用意するために株式の売却が行われ、株式市場が暴落することが考えられます。そうなると、多くの富裕層から献金を受け取っている議員たちが、もろ手を挙げて賛成するとは考えにくいかと思います。
また、未実現利益は現在のIncomeの定義に反すると考えられるので、未実現利益への課税は恐らく違憲となるのではないでしょうか。
実務上対応可能なのか?実務家の視点からもこの未実現利益への課税が可能なのか考えてみたいと思います。
まず、$100 millionの資産ですが、どのタイミングで試算額を把握すればよいかわかりません。仮に法律である一時点(年末等)とした場合でも、市場価格が確認できない資産(未公開株式等)はどのように評価すれば良いのでしょうか。
上場している株式であれば、ある一時点の株価を参考にすれば金額を確認することができますが、世の中には株式公開していない企業はたくさんあります。これらの資産を持つ納税者の場合、都度コンサルティング会社に依頼して評価額を計算してもらうことになるかもしれません。コンサルティング会社によっても評価額が異なることも十分に考えられるので、正しい納税額の計算が行うことができるかわかりません。
(うちなら低い評価額を算定しますよ!というコンサルが出てきそうです・・・。)
保有している資産についても、株式だけということは考えにくいでしょう。恐らく、金などの現物資産もあるでしょうし、不動産もあると思います。それらの資産についても含めて未実現利益の課税となると、評価額の計算だけでものすごい時間がかかってしまいそうです。そうなると、納税者のコンプライアンスに対する費用負担も莫大なものになってしまうと思います。
また、IRSがどの納税者が$100 millionの資産を持っているかの捕捉をすることも難しいでしょう。
Billionaire Minimum Taxの施行に伴い、毎年全納税者の資産状況を報告させることになった場合、現在のIRSの状況では対応が厳しいと考えられます。
ちなみにですが、この未実現利益への課税が既に日本で行われていることはご存じですか?
「出国税」というものが平成27年7月1日以後に日本国外に転出される納税者に適用され、1億円以上の対象資産を所有している納税者は対象資産の含み益に課税されることになっています。
未実現利益への課税については、実は日本が一歩先に進んでいるとも考えられますね。
まとめ未実現利益への課税については、恐らく実現しないと勝手に予想しています。
ただし、この予想が外れてBillionaire Minimum Taxが施行されてしまった場合、かなりの混乱が生じることは間違いないと思います。引き続き税制について、しっかりフォローしておかないといけないなーと思う今日この頃です。
この記事を書いている途中でも、「HarrisさんはUnrealized capital gain taxは考えていないんだ!」と言ったコメントがあったり正直どうなるかさっぱりわかりません。
この辺の政策については、選挙向けのアピールで終わってくれればいいなと祈っています。
参考URL今回の記事を書くにあたり、下記のサイトを参考にしています。
The post 未実現利益への課税について(Billionaire Minimum Taxについて考える) first appeared on 国際人事・駐在員のためのアメリカ税務情報.