あらためて五輪で金メダルを取るのは本当に難しいことなのだと思う。リオデジャネイロ五輪で日本勢は期待以上と思える活躍でメダルを量産したが、 金メダルに関しては日本オリンピック委員会(JOC)が目標としていた14個には届かなかった。とはいえ、獲得したメダルの数や色の違いを超えて、日本の アスリートがスポーツの醍醐味を存分に味わわせてくれた17日間だった。
アスリートが4年間、人生の大半のエネルギーを注いでこの場所に立っていると考えるからだろう。やっとたどりついたそこで結果 が出せなかった無念を察すると、いたたまれない気持ちになってしまう。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)をすごいなーとは思っても、彼の気持ちをわかろうと は思わない。おそらく、勝者に気持ちが入るのと、敗者に心を寄せるのと、人間には2つのタイプがあるのだと思う。
最もドキドキして見たの は、卓球の女子団体準決勝で福原愛(27)がドイツ選手に敗れた最終ゲームだった。3―7の劣勢から、恐ろしいような集中力と気迫で打ちまくって6連続ポ イント。勝利を目前にしたところで、今度は4連続でポイントを失って敗れた。ずっと攻め続けたのは福原で、ボールを浮かせてミスを誘う相手の術中にはまっ た。最後は相手の返球がエッジボールになる不運だった。
■福原の繊細で優しい性格はアスリートとしては?
福原はなぜあそこで勝ちきれなかったのだろう。なんの関係があるのかと突っ込まれると困るのだが、結局は彼女の繊細で優しい性格のせいではと思えて仕方が ない。福原は個人戦では絶好調で3位決定戦まで戦い、過去に対戦したことのない北朝鮮選手に敗れてメダルを逃した。チームメートの石川佳純(23)をフル ゲームの激戦で下して勝ち上がってきた相手。当然、石川に対策などを聞いて臨んだのかと思ったら、「(石川の)傷口をえぐるようで聞けなかった」。 取材記者の間でも、気配りを忘れない彼女の記者やファンへの受け答えは時に「神対応」と呼ばれるという。結果次第で互いの人生が変わりかねない勝負をする には、人として優しすぎるのだと思う。スポーツ記者としていろいろなアスリートを見てきたが、個としての戦いで勝ちきることができるのは総じて、周囲に配 慮などせずに自分本位に徹することができるタイプである。
でも、こうも思った。アスリートとしては弱点でも、彼女のこの性格は人としては間違いなく美点となる。福原は幼い頃から天才卓球少女「泣き虫愛ちゃん」として注目を浴びてきた。テレビカメラに追いかけられ、卓球がうまいだけで甘やかす大人も周囲にたくさんいたはずだ。偏見かもしれないが、そんな環境でよくぞこんな立派に育ったと思う。中国で人気が高いのも、その人柄で愛されていると聞く。ドイツに負けた直後も、涙をこらえながら「この負けはすべて私の責任です」と話し、初戦を落とした12歳年下の伊藤美誠を気遣っているようだった。残念ではあったが、少しほっこりするようなうれしさも感じさせてもらった。