マレーシアに進出している日系のIT企業は、その進出時期によって大きく2つに分類することができる。1996年~2005年の「マレーシアICT産業の幕開け期」、そして2012年~現在までの「アプリ/Webサービス拡張期」に分けて日系のIT進出企業を取り上げてみたい。
マレーシアICT産業の幕開け期1996年、クアラルンプールから車で30分ほどかかる広大な土地に造られた計画都市「サイバージャヤ」にMDeC(マルチメディア開発公社)が設立された。そのMDeCが世界各国からICT企業を誘致するために制定したのがMSC Malaysia Status (通称MSCステータス)だった。その経緯は大前研一氏が描いたマレーシアのICT構想 でも触れている。
MSCステータスを取得したICT企業は「最長10年間の法人税を免除」や「日本人を含む外国人の自由雇用」など優遇措置を受けられるということもあり、MDeCの呼びかけに応じた世界各国がICT企業がマレーシアに参入してきた。
1997年~2005年にMSCを取得した日系IT企業リストこのICT産業の幕開け期にマレーシアに進出しているICT企業は多国籍展開ができるほどの体力のある大手企業が多く、ユーザーも製造業や金融業などで大手顧客層が中心でICTインフラ構築から工場や製造ラインのシステム開発などに携わってきた。(GBSはGlobal Business Servicesの略称)
MSC取得年 MSC Cluster 会社名 業務概要 1997年 GBS NTT MSC SDN BHD ICTサービスプロバイダ、
データセンター、オフィス全般 1997年 InfoTech Fujitsu Telecommunication Asia Sdn Bhd テレコミュニケーション基盤構築 1997年 GBS FUJITSU (M) SDN BHD 総合ICTサービスプロバイダ 2001年 InfoTech Hitachi Sunway Information Systems Sdn. Bhd. 日立システムズとSunway Technology Sdn Bhd. の合弁会社。ICTサービスプロバイダ 2002年 GBS NEC Corporation of Malaysia Sdn Bhd 総合ICTサービスプロバイダ 2002年 InfoTech Hitachi eBworx Sdn Bhd 金融機関向けシステム開発 2003年 GBS Emerio (Malaysia) Sdn Bhd ITアウトソーシング 2005年 GBS Fujitsu Systems Global Solutions Sdn Bhd Fujitsu Systems が FBIC Computers Services Sdn. Bhd.を買収。各業種向けソフトウェア開発
しかし、2005年以降、日系企業のMSCステータスの新規取得はパタリと止まる。NTTに始まり、富士通、NEC、日立と強力なプレイヤーの市場参入が完了したことで、当時のマレーシア市場はほぼ飽和状態になったものと思われる。
アプリ/Webサービス拡張期の到来「マレーシアICT産業の幕開け期」から7年も経過した2012年。ようやくMCSステータスの新規取得の動きがみられるようになった。スマートフォンやタブレットが普及期に入り、国境を超えてアプリやWebサービス、ECサイトなど多様なサービスの開発および提供が始まったことで、スタートアップや新興企業がアジア展開のハブ拠点としてクアラルンプールを選ぶ傾向がみられるようになった。マレーシア市場だけを見るのではなく、インターネットを通じてアジアや世界に展開することを前提とした戦略拠点なのだ。
2012年以降にMSCを取得した日系IT企業リストICT幕開け期の参入企業と比べて企業規模は小さいが、フットワーク軽く市場のニーズに合わせて迅速な対応ができる。Managing Directorが30歳代から40歳代と比較的若いことも特徴だ。
MSC取得年 MSC Cluster 会社名 業務概要 2012年 Creative Multimedia Funnel Malaysia Sdn Bhd ゲームサービス開発、提供 2012年 Creative Multimedia Flystudio Sdn Bhd ゲーム、グラフィックスデザイン 2013年 InfoTech Blueship Sdn Bhd ITサービスマネージメント 2013年 InfoTech Buzzelement Sdn Bhd アプリ開発 2013年 InfoTech Sohwa Malaysia Sdn.Bhd. 組み込み型ソフトウェア開発 2013年 GBS VINX Malaysia Sdn Bhd 流通小売業向けソリューションプロバイダ 2013年 InfoTech Catch the Web Asia Sdn Bhd Webマーケティング 2013年 InfoTech SUMISHO ECOMMERCE MALAYSIA SDN BHD ECサイト運営 MSC未取得の日系IT企業リスト
MSCステータスはすべてのICT企業にとってメリットがあるというわけでもない。例えば、MSCステータスを取得しても法人税が免税になるのは、対象になるサービスで得られた収益だけなので、対象/非対象のサービスを展開している企業の場合、経理処理が複雑になってしまう。また、外国人ビザの発給メリットもそもそも外国人(日本人を含めて)を雇用する予定がなければ意味がない。あえてMSCステータスの取得を選ばない企業もある。
会社名 業務概要 BROTHER INTERNATIONAL (M)SDN BHD OA機器販売 CADIX RESEARCH & DEVELOPMENT SDN BHD CADシステムの販売およびサポート CHIYODA SOFTWARE LABORATORY (M) SDN BHD ソフトウェア受託開発 CTC Global Sdn Bhd システムインテグレータ HITACHI DATA SYSTEM (M) SDN BHD ストレージの販売&サポート KDDI MALAYSIA SDN BHD ネットワーク構築、SI、オフィス全般 KONICA MINOLTA BUSINESS SOLUTIONS (M) SDN BHD コピー、プリンターなどオフィス機器販売 NETMARKS TECHNOLOGY (M) SDN BHD システムインテグレータ NTT DATA MALAYSIA Sdn Bhd システムインテグレータ RICOH (M) SDN BHD プリンターなどオフィス機器販売 TK International Sdn Bhd ITコンサルティングサービス、クラウドサービス販売 V-CUBE MALAYSIA SDN BHD ビジュアルコミュニケーションツール販売 アジア圏でのアプリ/Webサービス市場の拡大とともにスマホやタブレット向けのアプリやサービス、企業向けのクラウドサービスなど、ITサービス市場が引き続きアジア圏でも拡大していくことは間違いない。日本で開発されたITサービスをアジア展開するあるいは、最初からアジア向きに開発してその地域に展開する。そのような場合にアジア市場に近く、起業しやすい国としてマレーシアの優位性はますます高くなるだろう。
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