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阪神大震災を振り返る(5)
震災では 6000人以上の方が亡くなられた。
一瞬のうちに 瓦礫の山と化した神戸の街で 救助活動が始まるが
誰が助かって 誰が その下に 埋もれているのか
把握するのは とても 難しかったという。
古くからの住宅密集地では ご近所付き合いも濃厚で
すぐに 誰がいないかが分かったが、
新興住宅街では 隣に誰が住んでいるのかも よく分からない。
果たして この崩れ落ちた住宅の下に
何人が埋もれているのか、いないのか、
それすらも 判断のつかないところが 多かった。
助けを必要としている人がいると 分かっても
倒壊した住宅の中から 人を掘り出すのは 大変だった。
何しろ その人の上には 家が一軒分 乗っかっているのである。
柱と柱の わずかな隙間から 声を出して助けを求めているが
足から下は 落ちてきた天井にはさまれて 動くことができない。
当然 骨は折れている。
男が 何人も集まって 少しずつ 瓦礫をのけていくが
家が崩れたのは 一瞬でも
その残骸を取り除くのには 途方もない時間がかかった。
震災で 一番 被害が多かったのは 神戸市の西部 長田区。
小さな町工場が たくさんある地域で
終戦直後に建てられた 木造住宅が多く残り
道路幅は 昔のままで 狭く
緊急車両が 近づけない地形のところが 多かった。
そうした悪条件の上に 重なった 震災後の火災。
バラバラになった住宅の上を 火は 乾いた冬の風に乗って
おもしろいように 燃え広がった。
私たちが 取材し ドキュメンタリー番組でも取り上げた
Mさん夫妻も 長田区で被災した。
お二人は 当時40代。小学生のお子さんが 二人いた。
自宅が倒壊し ご主人と奥さんは ほこりまみれになりながら
何とか 自力で 外に出ることができた。
ところが まだ 瓦礫の中に 子供たちがいる。
どうやら 倒れてきた柱に 挟まって 動けないらしい。
子供のうち ひとりの 頭が見える。
「 お母さん お父さん 痛い。 動かれへん。 助けて!」
一生懸命 瓦礫の山を 崩そうとするが
圧し掛かる 材木や石の山は そう簡単に 取り除けない。
近所の人も必死で 助けようとするが
あちらでも こちらでも 助けてくれの声がする。
道具は なにもない。
素手で 必死で 石ころを一つ 二つと 取り除いていく。
そのうちに 向こうから みるみる 火の手が迫ってきた。
焦る。 早くしなければ。
しかし いくら必死に もがいても それは まるで 岩山から
アリが 砂を一粒ずつ運ぶような もどかしさだった。
「 あかん、このままやったら あんたらも 命がないで! 」
子供のそばを 離れようとしない夫婦を 近所の人が引きはがそうとする。
「 子供が中にいるんや。 声が聞こえてるんや! 助けな!」
「 火がもう すぐそこまで来ている。
あかん。無理や。あきらめるんや 」
夫婦は 号泣しながら 柱の隙間から手を入れ
子供の髪の毛を 少し切り取って
「 ごめんなぁ ごめんなぁ~ 」と 叫びながら 逃げたという。
どれだけ 辛かったことだろう。
どれだけ 自分たちの無力さを 嘆いたことだろう。
どれだけ 一緒に 死んでしまいたかったことだろう。
どれだけ あの日を思い出して 後悔していることだろう。
震災の犠牲者のほとんどは 家具や 自宅の倒壊による圧死で
即死だったと考えられるが こうして 生きたまま 瓦礫の間で
火災により亡くなった人も 少なくはなかった。
Mさん夫妻からこの話を聞かせていただいたのは 震災から1年後。
ご夫妻は 子供たちの死を無駄にしてはならないと
その後 地域の復興の中心となって 活躍されていた。
街づくりの話し合いの合間に出てきた 震災当日の話。
お子さんたちの 最期を語るご夫妻は
いろんな思いを 乗り越えてこられたのだろう、
むしろ どこか おだやかな顔を されていたように思う。
すごく 悲惨な話にも 関わらず。
しかし M夫妻の悲しみは きっと 今も 癒えることなく
むしろ より 深くなっているのかもしれない。
あれから 16年。
多くの命が 失われた。
そして 多くの家族が 愛する人を亡くした。
私たちは 自然の持つ 一瞬のエネルギーが
こんなにも たくさんの人の命を 奪うことができるのだと、
その当たり前の事実を 目の前にして 立ちすくんだ。
そして 残されたものは 命の意味を考え
街の復興に 自宅の再建に 家族の再生にと 必死になって 歩んできた。
今 神戸の街は 震災の跡形もなく
美しく そして 災害に強い街として よみがえったように見える。
センター街では 震災の後に生まれた 若者が
笑顔で ショッピングをしている。
しかし 私たちは 忘れてはならない。
この地で 土となり 灰となった 6500人の死者の魂を。
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