これまでこのブログでは、私が訪れたイラン各地の様子もお伝えしてきた。そのせいもあってか、「活動的だね」と言っていただくこともよくある。休暇を利用して国内旅行に出かけることは、確かに他の人と比べて多いのかもしれないが、普段の生活範囲も広いわけではなく、大抵、徒歩圏内で生活をしている。
幸いにも職場と家が徒歩圏内で、更にその範囲内に巨大な公園があるから、天気が良ければ仕事が終わると2歳の子どもを連れてそこに出かけることが多い。イランのみなさまは子どもと外国人が大好きだから(←好き、の属性が微妙に異なるが)、それら双方の属性を持った息子は、彼らにとって格好の愛玩の対象である。多くの人が様々な方法で、息子に構ってくれる。そうして公園で息子を遊んでくれたみなさまとは、その場限りの付き合いとなることがほとんどである。別の日に公園に来てまた同じ人を見かけても、タイミングが合わなければ互いに話しかけることもまれである。
ただし、唯一の例外がある。
彼の名を仮にAとしよう。ただ、私が聞いているその名前ですらこれまで彼以外に聞いたことがなく(イランは日本に比べ名前のヴァリエーションが少ない)、またその響きはペルシア語っぽく聞こえない。多分、自分でつけた愛称なのだろう。イラン南部のとある都市出身で、アメリカに数年間留学経験があり、今は仕事をしながら大学院に通っているというのが、彼の経歴だ。もちろん、私にはそれを確かめる術はない。本当かもしれないし、そうでないかもしれない。
他のみなさまと同じく、Aとは家の近くの公園で知り合った。年齢は私と同じくらいで独身。例にもれず子どもが大好きだそうだ。また、外国人も好きで、これまでも街で色々な外国人に声を掛けて友達になろうとしてきたとのこと。こんな話はよくあり、また私もこれまでペルシア語を勉強するため市井の人々に声を掛けてきたこととも変わらない。
そんなAとは“偶然”、公園でよく会う。どれくらいよく会うかというと、公園に週5回行くとして、そのうち3回は会っているようなイメージだ。まあ、あっても息子をあやしつつ話をするだけだから、別にどうってことないのだが。
ある日のこと。妻が「ねぇ、今日公園で”ミズタニの友人だ”ってひとに話しかけられたんだけど」と、私に言った。特徴を聞くと、Aその人である。どうやら妻と一緒に公園に出かけていた息子を見て、私の妻だとわかったらしい。Aが私たちの生活へ入り込んできたようだ。
そう意識するようになってから、私の通勤時、Aが反対側の通路を歩いているということに気づいた。それとなく聞いてみたことからすれば、彼の生活圏(大学院、職場、家)は、私の生活圏を完全に包含しているらしい。繰り返すが、これまでAは別に私の息子に危害を加えるようなことはやっていない。ただ、偶然に公園で見かけた時はこちらに近寄ってきて息子と遊んでくれるだけだ。風船などのおもちゃをくれたこともある。
しかし、である。
「今日、語学学校でであなたの奥さんを見かけたよ」と言われたこともあるし、妻からも「Aっぽい人を語学学校で見かけた」と言われたこともある(別に、中国人の友人がいるとのこと)。また別の日、徒歩で職場のビルがある通りに入ろうとしたら、私のオフィスが入るビルからAが出てきたため、とっさにその通りをやり過ごしたこともある。また昼頃突然電話があり、「ミールザーガーセミ―(イラン料理の一。)が好きと言っていたから、買ってきたよ」と、届けてくれたこともある。職場の住所なんて、彼に言った覚えはないのに。私の家のある通りから出てきたのを見かけたこともある。更に、歩いていたら後ろからいきなり肩を叩かれて、かなり驚いたこともある(←あまりに私が驚いて不機嫌に対応したことを察したのか、後日あった時に謝罪された)。
そんな彼の悩みは、特に日本人は冷たい、ということだそうだ。これまでも私の他に街で声を掛けて友達になろうとした日本人はいたが、その人がたとえペルシア語ができたとしても、かなりよそよそしく対応されてきたとのことだ。
まあ、当然の反応だろうと思う。
息子に危害を加える様子が全くないこと、また、「日本滞在のビザが欲しい」としつこく言い寄らないこと、更に、あからさまには「家に遊びに行ってもいいか?」と聞いてこないことなどから、家の外で会う分には問題がないと考えて、私自身は別によそよそしく付き合ってきたつもりはないし、これからもそのようにするつもりはない。
誰か彼に、お付き合いの作法を教えてあげて欲しいものだ。
【ひとことペルシア語173】labgir(ラブギール)
:labは、"唇"の意味。girは、geftan("とる")の意味を持つ接尾辞。水タバコを吸うとき、衛生的な問題が生じないよう、唇と触れる部分は使い捨てになっているが、その唇と触れる部品のこと。なぜこれほど説明口調になったかというと、私が日本語でこれを何というか知らないから。
*この記事は個人の体験に基づいて記載されており、筆者の所属する組織の見解とは全く関係がありません。
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