船旅による疲労は想像をはるかに上回るものだった。
揺れる船内でずっとバランスを無意識にとっていたこと、船酔いに耐えながら動き回ったこと、慣れない場所と狭い水周りのストレス、カンカンを連れて海の上にいる緊張感。良い経験になったのはもちろんだが、それと同じくらいの疲れが体にも精神的にもどっと押し寄せていた。
「下船してさらにもう一泊なんて何故?」と最初思っていた私。どうやらこのクルーズに参加した人はほぼ全員、下船したあと最低1泊、もっと長く別のリゾートでのんびりする人ばかりだった。
オットによると、詳しい人に聞いてもそういうプランを勧められるらしい。どうやらそれは、船旅の疲れを引きずったまま空港へ直行、長時間のフライトをこなし家にたどりつく…というのがなかなかハードだから、らしかった。
実際、肉体疲労はもちろんのこと、荷物もめちゃくちゃだった。海で使用したもの…水着やサンダルはもちろん、ビーチで着用していただけの洋服、帽子、バッグなどすべてが強い潮風でべたついて、スーツケースの中には潮の匂いががっつりついていた。
旅の前半に2回ほど洗濯をしたけど(風呂場で足踏み洗い…(笑))船の中ではほとんどできなかった。正確には下着だけでもと洗ってしまったのが大間違いで、狭い船室で締め切った部屋(窓は開かない、つーか開いても潮風直撃)じゃいつまでたっても乾かない。おかげで部屋は4日間ずっとジメジメ……。無知が招いた失敗だった。
さてソフィテルは私がガイドブックで見て、一番施設が綺麗そうに見えたからリクエストしたところだ。
確かに建物はとても綺麗。いわゆるリゾートホテルのイメージそのまま。ホテルの中ですべての用事が片付き、皆プールで戯れ、洗練された敷地内を買い物や食事で楽しむ…砂の上を裸足で走りながらバイキングディナー、なんていうシャングリラとはだいぶイメージが違った。家族連れ(特に小さなベイビー連れ)が多かったが、その割りにおしゃれなレストランは子供がにぎやかにできるような雰囲気ではなかった。さすがにハイチェアはあったが。
ここにずっと泊まるなら、いったい何故フィジーまで来る必要があるのか???というのが正直な感想。きっとみんな他のホテルとハシゴしてるに違いない、分からないが。
まずシャングリラと違い、美しいビーチを持っていない。エメラルドの海、皆無。透き通っていない普通の海(?)があって、ビーチの砂も貝殻やサンゴの粒じゃない。というかたぶん、半分人工的に作ってるのでは???実際海でくつろいでいる人は少ない。
近代的で都会的でおしゃれなホテルの中で楽しめる、ならばそのどこにフィジーの要素があるのか?プーケットとモルディブで同じようなリゾートホテルに泊まったことがあるが、本当にどこが違うのかと聞かれたら困るぐらい。食べ物が違うとかそういうことは置いておいて。
夜空に響く生演奏も、聞こえた限りではビートルズなど洋楽メドレー。その日はたまたまだったのか?
そしてスタッフの多くはインド人。インド人が多いこともフィジーである要素のひとつとはいえ、旅でフィジーの雰囲気を楽しみたいのに、陽気で人好きなフィジアンに比べてどこかクールで事務的なインド人。もともと商売っ気のないフィジアンに代わりビジネスを構築してきたのは彼ららしいので、役割分担としてそれでいいのだろうが…。
フランスの大手ホテルグループだったかな?ソフィテルは。(日本にも確か名古屋に1軒あったかな)だからかどうか、フィジーじゃなくて洋風のおしゃれホテルだ。そして食事が高い!!……いや、リゾートホテルなら確かに高いのかも知れないが、少なくともシャングリラはそんな価格じゃなかった。フィジーは観光価格も良心的なんだなとオットと感心していただけに、ちょっとガッカリである。
シャングリラのスタッフが良くも悪くも大雑把で適当ながらも(それでこそフィジアン?)とにかく親切で人懐こくて、子供大大大好きな人ばかりだったため、余計ギャップを感じてしまったかも知れない。
帰国前のチャージのためにとった1泊だったので別に良いのだが、最後までフィジアンの雰囲気にひたっていたい方には圧倒的にシャングリラをお勧めしたい。
さて、疲れきっていたものの、せっかくの1泊を少しでも楽しもうと無理やり着替えてプールへ向かう。カンカンは部屋の中じゃ退屈してご機嫌斜めだったし、少し散歩がてらベビープールで遊ばせてあげようと思ったのだ。
しかし、ここで事件が起きる。疲労は私とオットの注意力と集中力を相当奪っていた。大丈夫と思い込んでいたが予期せぬ形でカンカンに怪我をさせてしまったのだ。
プールからカンカンを連れて帰ろうと遊びながら抱っこしていたオット、足元の段差に気づかずカンカンを抱えたままプールに落ちてしまったのである。…といってもベビープールなので浅く、オットは足が腫れ上がるほどの強打、カンカンはあごをぶつけ小さなアザができ、口の中を少し切ってしまい血が出てしまった。オットは倒れながらもとっさにカンカンを何とか助けようとプールの外にカンカンを置こうとし、その時に軽くぶつける程度で済んだようである。病み上がりのオットは弁慶の泣き所をガッツリ怪我…。
私は二人の後ろを歩いていたけどボーっとしていて、最初「あれっ?二人が消えた?」と数秒の間、二人が地面に倒れていることに気づかなかった。監視員の男性数人(フィジアンばかりだった)と目が合い、駆け寄ってくるので何事かと思いながらようやく気づいた感じ。
カンカンがごく軽い怪我で本当に良かったが、口の中が血で真っ赤になっていた時は思わず悲鳴をあげてしまった。そしてオットのもーのーすーごーいー落ち込みっぷり……。
あまりに落ち込み過ぎて、カンカンに半泣きで謝り続け、ごつい体を小さく丸めて今にも溶けてなくなりそうな程うなだれているオットに対し、フィジアン監視員たちがポムポムと肩をたたき、親指をたて、「元気だせよ!大丈夫だよ!」と励ましてくれていた。
子連れ旅の鉄則。
時間はもちろん、親の体力にも十二分に余裕を持たせて行動すること
(自分の体力を過信してはならない)
そして9日目の朝、6時起床。シドニーの4時である。もうアホですかってくらい眠い。よろよろと身支度を整え荷物をまとめ、タクシーが迎えにくる時間ギリギリにカンカンを起こし準備。
抱っことストローラーでそんなに無茶はさせていないつもりでいたが、やはりカンカンも相当疲れていたに違いない。時差があり、初めての場所、知らない人々、慣れないベッド、見慣れないから食べる気になれない食事……。
いつも飛行機ではご機嫌のカンカンだが、帰りの便はさすがにちょっとぐずっていた。授乳をしても眠れず。抱っこや散歩で頑張る。
朝早かったので昼にはシドニーに着き、旅の前に冷蔵庫をからっぽにしていったので早速外食へ。行きなれた寿司バーへ入るとカンカンの機嫌がみるみる良くなった!うどんをモリモリ。ずっと食事を嫌がっていたから良かった。
15ヶ月にしてすでに9回も飛行機に乗った(乗らされた)カンカンだが、さすがに今回の長旅はハードだったに違いない。
お疲れ様&ありがとう。
帰りの飛行機内から見えた海
そしてこの旅をきっかけに、ぐんと人懐っこくなったカンカン。
パパとママ以外の人も、笑顔をくれる、可愛がってくれる。その経験が初めてだったからかな?日本を早くに離れてしまい、親戚やじいじばあば、ご近所さんも誰もいない環境で育っているから…。フィジアンたちのお陰で、カンカンがまたぐんと成長したと思う。
次の旅はどこに行くんだろう?すべてはオット・プロデュース。本当に完全にまかせっきりで、実は私は旅の当日までろくに何も知らないことが多い。
楽しみに待つことにしよう、大きくなったカンカンと二人で。