我が家では料理はウサオが担当している。私と出会う前ウサオのレパートリーは、フレンチ・イタリアン・中華だったのだが、私と結婚したことで和食がレパートリーに加わりつつある。
いまや揚げ物(天麩羅、唐揚げ、トンカツ)はウサオの方がよっぽど上手になってしまったし、冬はふろふき大根やおでんも作ったりするようになった。(我が家で一番消費される調味料は醤油である。)
そんなウサオが最近凝っているのは浅漬けだ。元々は余った大根や白菜、キャベツを使いきるために始めたのだが、いろいろ試しているうちに楽しくなったらしい。ウサオがいろいろ作った浅漬けの中で私が気に入ったのが、「セロリとにんじんの浅漬け」だ。千切りにしたセロリとにんじんを漬け込んだ簡単なものだが、針しょうがを入れるのがポイントのようで、すごくさっぱりしている。実は私はセロリの独特の匂いと味、食感が苦手なのだが、千切りにすることでセロリの繊維質な食感がなくなり、酢に漬けることで独特の匂いと味もまろやかになるせいか、いくらでも箸が進む。
私は普段ホームシックを感じないのは、ウサオが醤油や味噌など和食で使う調味料を使った料理を作ってくれることが大きいと思っている。食生活の満足度が生活の満足度に通じるものがあると思う。ウサオのお母さんも料理好きでいろいろ作ってくれる。彼女の料理は伝統的な英国風で美味しいのだが2日もすると和食が恋しくなってくる。長い時間かけて培われた味覚はなかなか変わらないらしい。それでも20代の頃はハンバーグやパスタやグラタンを食べることもあったが今はあまり欲しいと思わない。(現在毎週土曜日が洋食デー)
食事は日々のことだから、合わないと大変だ。もちろん日本人同士でも合う合わないはあるが、国際結婚の場合食文化のちがいがさらに大きくなるし、時には婚姻関係に影を落とすこともある。
以前インスタントラーメンがきっかけで国際離婚をした夫婦の話を読んだことがある。妻(日本人)が夜中にインスタントラーメンをすすっていたところ、その音にずっと我慢していた夫(南米出身)がぶちきれて妻を張り飛ばしたのだ。
彼の食文化において麺をすする行為はありえないことであり、インスタントラーメンの独特の匂いも耐え難いものだったらしい。だがこの夫、実は結婚してすぐに失業しその後定職に就かず妻が仕事を掛け持ちしてなんとか生活していた。夫が家でぶらぶらしている間、妻はその国の言葉があまり流暢でないことや外国人ということで差別もされ(ついでに言うとその国は男性優位の文化圏)低賃金で働き詰めだった。そして夜遅く家に帰った時は食事の支度をする余裕もなく(夫は好き勝手に食べている)、日本のインスタントラーメンを食べるのが唯一の楽しみだったらしい。
そもそも自国で仕事を見つけられない夫が問題なのだが、どこの国でも自国人には甘い。妻は語学留学していた時に夫に出会って紆余曲折の上結婚した。彼女の両親は結婚に大反対だったため夫が失業して夫婦仲がごたついても相談できず、ずっと我慢していたそうだ。夫の家族は彼をかばい日本人と一緒になったからこんなことになったと一生懸命働いている彼女を責めていたので、破綻するのは時間の問題だったのかもしれない。だがきっかけはインスタントラーメンだ。異国で孤立無援の中、自国の味を少しの間楽しみたかっただけなのに暴力を振るわれたことで彼女もそれまで溜め込んだ不満が爆発し、最終的に離婚して日本へ帰国した。
たかが食事とあなどれないなとウサオの浅漬けを食べながら思う。
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