先日,EPSL(Earth and Planetary Science Letters)という雑誌に掲載された論文の別刷りが届いた.
最近は論文の電子化が進んで,紙媒体である論文の別刷りはあまり必要無くなったのだけれど,EPSLはナカナカ敷居が高い雑誌なので少し注文していたのだ.
別刷りの価格は100部で約4万5千円.
2006年に出版されたEPSL論文の時は,250部も注文して沢山の先生に手渡しや郵送で配ったけれど,今はPDFファイルをメールでやり取り.たった4年の違いだけれど,論文の電子化は随分進んだと思う.
ただ,ペラペラの論文だけど,やはり手にとって見ると苦労が報われた気がして感慨深い.
でも,配送の時に封筒が傷ついたらしく,最初から論文の端が痛んでいる.ひどい..
ところで,学術雑誌というシステムは一般にあまり知られていなく,しばしば誤解を受けるので,ここで簡単に紹介してみようと思う.
まず,当然ながら研究結果がまとまったら論文を書く.
そして,学術雑誌と呼ばれる研究論文を専門に掲載している雑誌に投稿する.
この時,学術雑誌の格(レベル)と自分の論文の出来などを照らし合わせ,投稿先の雑誌を選ぶ.最近は学術雑誌のレベルがインパクトファクター(IF)という尺度で表してあったりするので便利だ.
投稿された論文は,編集担当によって適当と考えられる同業研究者に送られ内容をチェックされる.これを査読と呼ぶ.基本的にこの作業はボランティアで,つまり研究者は自分の論文を雑誌に投稿すると共に,他の研究者の論文もチェックする.
この相互補助によって,雑誌および研究分野のレベルが保たれる.
一方,学術雑誌は書店に並ぶことはほとんど無く,大学・研究機関の図書館に納められる.
近年,これらの学術雑誌を扱う出版社の寡占化が進んでおり,それに伴い雑誌価格が高騰している.例えば, EPSLはエルゼビアという出版社によって発行されているが,この雑誌の年間購入価格は約55万もする!
雑誌の質が高く,正直言ってこの雑誌無しには研究が進まないのだけれど,それを良いことに雑誌価格が年々上昇していることが問題となっている.
ただ,出版社が発行する学術雑誌の利点は,研究者が論文を発表する際に費用が不要であることだ.
つまり,出版社発行の学術雑誌は高価だけれど,図書館(研究機関)が費用を支払うため,個人負担がない(別刷りは除く).
一方,学会によって発行されている雑誌も多数ある.
たとえば,American Geophysical Union (AGU)の発行するJournal of Geophysical Research (JGR), Geophysical Research Letters (GRL), Geochemistry, Geophysics, Geosystems (G-cubed or G-3)など.
これらの雑誌は学会よって運営されているので,営利目的ではない.しかし,論文を掲載して貰うには,こちらが出版費用を出さなくてはならない.僕も2008年にG-3から論文を出した時には,約10万円を支払った.この雑誌は電子出版のみなので,論文の印刷費用ではなく編集作業にもそのぐらいのお金が必要だと言うことだろう.
エルゼビアなど寡占出版社の横暴を良く思わない研究者は,学会運営の雑誌に論文を出すことが多い.僕のポスドク時代のボスも反エルゼビア運動と言って,AGU系の雑誌にのみ論文を出している.けれども,学会運営系の雑誌から論文を出すためには出版費用が必要で,これは駆け出し研究者には馬鹿にならない.そして,EPSLなどエルゼビア系雑誌の格の高さも捨てがたい.駆け出し研究者には,格の高い雑誌に論文を載せて,沢山の人に読んで貰うことが重要なのだ.
という訳で,僕はしばらく反エルゼビア運動には加われそうに無いです...すみません.
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