隕石衝突(K/T境界)を生き延びた恐竜がいたかもしれないというニュースです.
論文は,Geologyの 2月号 (39, 159-162)
James E. Fassett, Larry M. Heaman, and Antonio Simonetti
"Direct U-Pb dating of Cretaceous and Paleocene dinosaur bones, San Juan Basin, New Mexico"
センセーショナルな記事ですが,この論文のキモは,
"laser ablation-muiticollector-inductively coupled plasma-mass spectrometer technique"を使った.
つまり「恐竜の骨を使ってダイレクトに年代測定した」という所ですね.
ざっと論文を眺めただけですが,内容を簡単にまとめると,
これまでもK/T境界後の地層からも恐竜の化石が見つかっていたけれど,それらは再堆積とされていた(つまり堆積後に浸食などによって再移動した).
著者らはこの見解に疑問を持っていたようですが(と言うより反対の立場だった),
今回は最先端の年代測定技術を使い,その化石がやはりK/T境界より若いことを証明した.
という感じです.
論点は幾つかあるかと思いますが,僕が思う重要な点は,
年代測定精度は置いておくにしても,
化石のU-Pb(ウラン−鉛法)年代値をAr-Ar法で求めたK/T境界年代と単純に比較できる?
という所です.
かれらは,K/T境界の年代値(6550 ± 30万年)に対して,今回のU-Pb年代(6480 ± 90万年)が有意に若いことから,この恐竜は隕石衝突後に生きていた(死んだ)としました.
しかし,このK/T境界年代値の信頼性については僕は個人的に疑問を持ってます.
実は,この年代値は最近修正されて(Kuiper et al., 2008 Science),6596 ± 40万年とされていますが,この年代の違いはAr-Ar法における標準年代値の違いに起因するものです.
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元々のK/T年代(GST2004; Gradsten et al., 2004)は,FCs標準年代を28.02 Ma,
新しいK/T年代(Kuiper et al., 2008)は,FCs標準年代を28.201 Maとしている
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最近,僕はこのAr-Ar法におけるスタンダード値について色々勉強をしているんですが,
実は業界的にもまだ標準年代値のコンセンサスは得られていないようです.
去年の僕の論文では,少なくとも最近の地磁気逆転(B-M境界)の年代値に関しては,
これらの標準年代値に基づく地磁気逆転の年代は,他の年代指標による同境界の年代値と一致しないことを報告しました(Suganuma et al., 2010 EPSL).
この見解は,去年末に別の論文(Channell et al., 2010 G-cubed)でも報告されました.
このことは,これらの標準年代値を使ったAr-Ar法は年代を少し古く見積もっている可能性を示唆します.
つまり,僕の意見としては,現時点でU-Pb法とAr-Ar法を使って,6000万年以上前の数十万年の前後関係を決めるのはちょっと厳しいんじゃないかと思うわけです.
個人的には,K/T境界を生き延びた恐竜がいたら面白いなあとは思うんですけどね.
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