近年,温暖化の進行によるグリーンランド氷床の融解加速が心配されています.
僕も講義ではこの話題に触れ,温暖化のリスクとして説明してきました.
しかし,今週のネイチャー論文によるとこの現象はそんなに単純じゃないようです.
この話の基になっているのは,
グリーンランド氷床表層の融水が,下の写真にあるようにmoulinから氷床底に流れ込み,
その結果として,氷床底と基盤の摩擦抵抗が減って氷床流動が加速するというモデルです.
http://climateprogress.org/2009/06/14/sea-level-rise-greenland-ice-sheet-melting/
"Melt-induced speed-up of Greenland ice sheet offset by efficient subglacial drainage"
Venke Sundal et al., 2011 Nature 469, 521-524.
ところが,今週発表されたネイチャー論文(上)では,
「グリーンランド氷床の融水増加と氷床流動速度」は比例関係ではなく,
「融水がある閾値を超えると氷床流動スピードを落ちる」と報告されました.
基データは,融水の多い年と少ない年における氷河流動速度の比較で,
融水が多い年では,氷床流動速度のピークは例年よりも高いけれど,夏期後半には流動速度が急激に落ちます.一方,融水の少ない年では,急激な氷床流動速度のピークはないものの,夏期間中ずっと安定して高い氷床流動速度が維持されています.
その結果,融水の少ない年が多い年に比べて約35%も氷床流動が大きくなるそうです.
この現象の原因は,以下の文面で説明されています.
"Abundant melt-water can trigger a switch from inefficient (cavity) to efficient (channelized) modes of drainage and, consequently, to a reduction in subglacial water pressure and ice speed"
つまり,融水の排出システムがcavityからchannelized modeに変わると,排水効率が良くなり,結果として氷床流総速度が落ちるとしています.
この様な現象は山岳氷河で見られるそうですが,僕自身,どうしてこの排水システムの変化が氷床流動速度を変化させるのか? まだ直感的に理解出来ていませんので,もう少し勉強が必要です.
ちなみに,聞くところによると,氷床流動シミュレーション自体も本当に難しいそうで,
さらにこういうデータも出てきましたし,将来の氷床融解を予測するためには,まだまだ地道な研究を積み重ねてかないとなりませんね.
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