ずうっと昔、私がまだ20代前半だったころの話。
私は、二代目のルームメイト(Aちゃん)と
東京で一軒家をシェアしていた。
彼女は、つぶれてしまった会社に一緒に勤めていた時の元同僚。
年は私と同じ。
結婚して出て行った一代目ルームメイトと
バトンタッチして、私の二代目ルームメイトとなった。
お嬢様育ちでおっとりしている反面、しっかりしている、
そんな彼女との2人暮らしは、ほんわりとしていて、
快適だった。
Aちゃんには7つほど年上の婚約者(Bさん)がいた。
Bさんは最初は週末に来ていただけだったのが、
だんだんと、毎日のように泊まっていくようになっていった。
彼は、いい人だったけど、
女2人の気楽な暮らしを気に入っていた私は、
すこし不便だな、と思い始めていた。
お風呂上りなど、タオル一枚巻いてうろうろすることも
できなくなったし。
それよりも、私がイライラするようになったのは、
ほとんど毎日一緒に暮らしているのに、
家賃や光熱費や食費を女2人だけで負担していることだった。
彼は、別に無職だとか、お金に困っていたというわけではない。
きちんとした会社で専門職として働いていたから。
それでも、その当時、バブルの時代で、
派遣社員ながら、正社員並みの福利厚生を受け、
かつ、並の正社員よりも稼いでいた私は、
一度Aちゃんに湾曲的にそのことを
伝えただけにとどまった。
(私も別にお金に困ってるわけじゃないし...。)
(私が黙っていれば、波風立たない。)
と思ったのだ。
今の私だったら、本人にストレートに
フェアじゃないんじゃない、と言っていただろうが、
当時の私は20そこそこの小娘だし、気も弱かった。
そんな日常を送りつつも、とりあえず友好的だった私達だったが、
ある日突然、事態が一変した。
Bさんが私を完璧に無視し出したのだ。
話しかけても、聞こえないふりをしたり、
2人が台所で食べているときに、私が帰宅すると、
ついっと、ルームメイトの部屋に消えてしまったり。
私たち3人が招待されていたイベントも、
私が行くなら行かないと言い出したこともあった。
Aちゃんに、理由を聞いても、わからない、の一点張り。
私が家計費のことで不満があることを
AちゃんがBさんに伝えたからかな?と思ったが、
彼女は、そうではないって、と彼からの伝言をする。
30になる男が、こんな子供じみたことをすることに
驚いたが、一番リラックスしたい自宅で、イライラし、
落ち込んだ日々だった。
そんな風に何ヶ月が過ぎ、ルームメイトとその彼が
結婚に備え、引越しを計画していたある日、
なぜ無視されているのか謎が解けた。
当時、私がよく遊んでいた友達の1人に、超美人のMちゃんがいた。
ある日、そのMちゃんから電話がかかってきた。
ちょっと相談がある、という。
何?何かあったの?と聞くと、
思いもかけない話だった。
「実はBさんから電話攻撃されている」という。
彼女は時々、私のところへ泊まりに来ていたが、
ある夜、ルームメイトの彼と初めて鉢合わせし、
3人でお酒を飲んだ(ルームメイトは寝ていたと思う)のだが、
私がトイレに行っている隙に、Mちゃんに名刺を渡し、
電話して、と言ったらしいのだ。
彼女は、私から聞いて、彼らが婚約していることを
知っていたので、一度も電話をしなかったという。
すると、なんと、Bさんは
彼女の職場の電話番号を調べたらしく、
ある日彼女宛に電話がかかってきて、
「一度でいいから会ってくれ」
と懇願されたという。
その日は、「困ります」とやんわり断って
終わったらしいが、それが何回も繰り返されているという。
そこで、そうか!と合点がいった。
Bさんは、多分、罪悪感に苦しんでいたのだろう。
いや、罪悪感というより、後ろめたさか。
私がMちゃんから聞き、それをいつAちゃんに
告げ口されるのかと恐れていたのだ。
もしかしたら、Mちゃんと引き合わせた
私を恨んでいたのかも知れない。
Aちゃんは本当に理由を知らなかったのだ。
私は、怒りが沸くよりも、謎が解けたことで
心にもやもやしていた霞が晴れていくことの
爽快感を覚えていた。
私は、このことを心を許している友人1人だけに打ち明けた。
彼女は、ふーん、と冷静に聞き、
「Aちゃんに言えばいいじゃない。」
と言い放った。
私は、そんなことは頭にもなかったので、
心底驚いたが、ちょっと考えてみた。
確かに、Bさんへのいい仕返しにはなる。
でも、そんなことをしたら、
彼らの結婚が破談になるかも知れないし、
そんな責任は負いたくない。
第一、友人のAちゃんを傷つけるのはごめんだ。
結局、心の中でその考えを、飴玉を転がすように
ころころとするだけで、私は口を閉ざすことにした。
その後、彼らは結婚し、私は披露宴で
共通の友人とお祝いの歌まで歌った。
今は当時の友人達とはほとんど連絡を取っていない。
AちゃんとBさん夫妻が子供をもうけたということは
確かはがきで知った。
今書きながら、ふと思った。
もしあの時、AちゃんにBさんの心にさした魔のことを
伝えていたら、どうなっていたのだろう。
2人の間の子供のことをちょっと考えて... やめた、やめた!
Oh well, I will never know...
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