スイスに拠点を置く世界有数のビジネススクールであるIMD(国際経営開発研究所)とシンガポール工科デザイン大学(Singapore University of Technology and Design)が共同で2年の時間をかけて、世界102都市を対象としたレポート「2019IMD世界スマートシティ・ランキング(IMD Smart City Index 2019)」が先ごろ、初めて発表されました。
この記事では、今回1位を獲得したシンガポールをはじめとした東南アジアの7都市と、東アジアの5都市の合計12都市を比較して各都市のスマートシティとしてのあり方に迫ってみたいと思います。
2019IMD世界スマートシティ・ランキングの概要 smart_city_15このランキングは、世界の主要102都市を対象に、インフラストラクチャーの充実度や先端技術の普及度合いなどを基準に評価し、健康、安全、移動手段、緑化度合い、就業、就学、統治といった面で、各都市がどれだけスマートシティ化を数値化してランキングしたものです。
また、このレポートのユニークは点として、各都市の市民120人から聞き取り調査を行い、市民の率直な意見も考慮して、それぞれの都市のハード面(施設)とソフト面(サービス)を評価したものとなっています。
また、調査項目のうち、「政府(地方自治体)は市民のニーズに重点を置き、ハイテク技術を適切に活用して市民の生活の改善に努めているか。」は、都市のスマートシティ化に対する評価において重要な判断ポイントになっています。
東南アジアからは、8都市が対象に選ばれており、順位順にシンガポール(1位)、ホーチミン(65位)、ハノイ(66位)、クアラルンプール(70位)、バンコク(75位)、マカッサル(80位)、ジャカルタ(81位)、マニラ(94位)になっています。ちなみに本記事の対象となっている上記以外の都市の順位は、台北7位、香港37位、ソウル47位、上海59位、東京62位でした。
スマートシティと言う言葉は、広く認知されているのですが、それでは具体的にその定義は何となると、具体的なイメージをお持ちでない方が大半ではないでしょうか。
そこで困った時のWikiさんなのですが、なぜか「Smart City」の項目の日本語版がありません。そこで今回は色々とググった結果、情報として比較的新しく(2019年5月)、質も内容もしっかりしている野村総研さんの資料「スマートシティ 報告書 ー事業機会としての海外スマートシティー」から定義を拝借します。
出典:スマートシティ 報告書 ー事業機会としての海外スマートシティー 野村綜合研究所 2019年5月
要約すると、「現在の第3世代のスマートシティでは、都市内のセンサーにより、各種膨大な量のデータを集積し、AIなどによる分析をもとに、都市インフラ等の最適化を行い、市民や企業の便利性・快適性の向上を目指すもの。」となるのでしょうか。
以下にスマートシティ 報告書の本体へのリンクを貼っておきます。興味のある方は参照してみてください。また、野村総研さんといえども、私企業ですから。。。その辺の考慮はよろしくお願いします。(笑)
各都市の位置関係 smart_city_13 東南アジア7都市の位置 smart_city_01 東アジア5都市の位置 smart_city_02上記にそれぞれの都市の位置関係を東南アジア、東アジアに分けて表示します。ちなみに一番東にある東京と、一番西にあるバンコクでは2時間の時差があります。
各都市のバックグラウンド情報 smart_city_14それでは、各都市のバックグラウンド情報(基本情報)を観てみましょう。
smart_city_03ここで、東京(日本)の一人当たりのGNI(国民総所得)(これをPPPと呼びます。)が意外に少ないことに驚かれる方が多いのではないでしょうか。シンガポールと比較して半分以下、台湾、香港にも大きく水をあけられて、韓国とはほとんど差がありません。これが失われた20年を経た今の日本の現状なのです。
また、UN HDIは国連開発計画が毎年発行している人間開発報告書に記載している人間開発指数(2010年以降は厳密には不平等調整済み人間開発指数(IHDI))です。この指数は狭義の人間開発指数(平均余命、教育および所得指数の複合指標)に人間貧困指数、ジェンダー開発指数、ジェンダー・エンパワーメント指数を加味した指数です。またこの指数は都市別ではなく、国別に計算されています。
ぼくは上記の12都市中、6都市に海外赴任で長期に滞在し、その他の都市も出張等で行ったことがあるのですが、ぼくの肌感覚の都市(国)の発展度は今回のスマートシティランキングよりは国連の人間開発指数の方が近いです。つまり、香港とベトナムの2都市の評価が高く、東京の評価が低いような気がします。そこらあたりの評価結果の違いにも注意しつつ、次の章では今回のランキングを検証していきます。
世界スマートシティ・ランキングの分析 smart_city_17それでは、みなさん日本人が移り住んで、業務を行ったり、リタイアメントの時間を過ごす場所として、それぞれの都市を考察した場合、今回のランキングからどのようなことが読み取れるか考えてみたいと思います。
まず、上記の表について説明します。この表は今回の巣マーチシティランキングで扱っている102都市のうち、ぼくが選んだ東南アジア・東アジアの12都市のハードウエアーとソフトウエアーについての評価を抜き出し、上位3都市を濃淡をつけた水色、下位3都市を濃淡のつけた赤色で見やすく強調しています。
評価項目の設定についてStructure(施設、ハードウエアー)とTechnologies(技術、ソフトウエアー)の大きく2つに分類されているのですが、これぞれの評価項目の内容設定は、具体的かつ良い切り口で書かれていると思いました。それぞれの項目設定が対象としている事例がイメージしやすいように思います。
それぞれの都市の評価結果についてそれでは、上記の2分野での評価結果について、ぼくが思ったことを以下の通り箇条書きにします。
東京の評価が思いの外、低かった。(ハード11位、ソフト12位、総合12位)上海、とベトナムの2都市の評価が思いの外、高かった。ソウルの評価も東京ほどではないが、低く、その傾向はよく似ている。シンガポールの評価も悪くはないが、想定よりは低かった。クアラルンプール、バンコク、ジャカルタ、マニラの評価順位は想定通りであったが、クアラルンプールの評価は想定よりも高かった。それでは、各都市の評価についての考察を簡単に書きます。
シンガポールシンガポールは今回のランキング総合1位ですが、施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面だけを見るとそれほど飛び抜けて評価が高いわけではないです。総合順位は前述のバックグラウンド情報の高得点も含めて評価されているようです。また、PPPは82.000USD以上とかなり高水準ですが、大量に存在する外国人労働者(PR保持者を除く)の影響を考慮する必要があります。
治安や便利性では、他のアジア諸国を大きく引き離す評価を得ている人がポールですが、物価と各種規制の多さがネックでもあります。
台北は総合ランキングで7位、アジア諸国ではシンガポールに次ぐ2位につけています。施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面でも。12カ国中、施設が5位、技術で3位、2つ合わせてでは、シンガポールに僅差で敗れて5位です。面積が小さく統制が取りやすいということがあるとは思いますが、スマートシティ化を頑張っていると評価できると思います。Wifiの普及も進んでいるようであり、物価的には東南アジア諸国よりは割高になりますが、親日的でもあり、今後も日本人が活躍できる地域として注目できると思います。
香港香港は総合ランキング37位とアジア諸国としては高評価を得ていますが、施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面では、施設で10位、技術で8位と低評価です。香港は住居をはじめとして、物価高でも有名です。
法人が中国への足がかりと香港に拠点を構ええる事に意味はあると思いますが、個人、もしくは自営業者が好んで香港で活動する理由はあまりないように思います。
ソウルは東京よりは高評価ですが、施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面では、かなりの低評価です。物価や気候もあまり日本国内と違いがなく、とき別理由がない限り、あえて移住する必要はないのではと思います。
上海上海は総合ランキングでは59位ですが、施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面では、施設で2位、技術で1位、2つ合わせても1位と抜群の評価を得ています。これは、一時期、東南アジアの発展途上国が携帯電話の普及において日本を上回っていた時期があったのですが、固定式の電話の普及を飛び越えて、携帯電話に普及が始まったため、一時そんな時期がありました。スマートシティ化の進捗に関しても、既存の施設・サービスを飛び越えて新しい施設・サービスが始まったため一時的にこのような評価が起こっているのでしょうか。それとも、新しい時代の波が押し寄せてきているのでしょうか。
新しい技術の習得に国を挙げて熱心であり、法規制も厳しくなく、消費に貪欲な市場があり、これから注目すべき年のように思います。
施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面では、散々な評価に終わった我らが首都東京です。法規制、既存権益、縦割り行政などの、悪影響が出た結果でしょうか。当初は東南アジアの諸都市との比較目的で取り上げたのですが、圧倒的な落ちこぼれに成り下がっています。既存のサービスがある程度確立されており、それほど新しいサービスの導入が切望されていなかったという下地があったのでしょうが、このままで良いはずはなく。期せずして東京、強いては日本の問題点を呈する形になりました。
ホーチミン・ハノイベトナムの2都市はホーチミン、ハノイの順に共に、施設(ハードウエアー)、技術(ソフトウエアー)の面で、ちょっと信じられないほどの高評価を得ています。ぼくは今回対象として12都市この2都市には訪れたことがないのですが、携帯電話の復旧のような前世代のインフラの欠如による新世代のインフラの急速な普及があったとしても、非常に速いペースでスマートシティ化が進んでいると言えると思います。また、社会主義特有の国家指導による強力な政策が実を結んでいるのかもしれません。
クアラルンプールクアラルンプールは、日本人の移住先として、ぼく的にはバンコクと並んで、本命的な都市のなのですが、今回の評価は想定通りと言えます。日本と比べて物価が安く、治安がそこそこ維持されており、法的な整備もそれなりになされていて、政治的にも一定の安定を保っています。
東南アジアの国としては珍しい、多民族、多宗教国家ですが、民族間・宗教間の共存が引き続くうまくいけば今後も移住先として魅力を保ち続けると思います。
上記の通り、クアラルンプールと並んで、日本人の移住先としては、ぼく的には本命的なバンコクですが、こちらのほぼ想定通りの評価であったと言えます。
各項目でもクアラルンプールと同等、もしくはそれに次ぐ評価を得ており、移住先として魅力的な都市です。懸念事項は、つい最近まで軍事政権であったことなど、政治的には安定していると言えず、また、各種法規、規制にしても、担当官による曖昧さがマレーシアなどに比べると見受けられ、改善の余地があるようです。
ジャカルタの評価も想定通りと言えるものでした。クアラルンプール、バンコクに比べると色々な面で2段階劣るというのが、ぼくの個人的な評価です。
また、英語の普及度に何しては、フィリピン、マレーシアには言うに及ばず、タイにも劣り、実生活においても、インドネシア語の習得無しには支障があると思います。
マニラの評価も想定通りのものでした。ジャカルタに比べてさらに1段階劣るというのがぼくの個人的な評価でした。
今回の評価を見ると1段階ではなく2段階ほど、ジャカルタとの差はあるのかもしれません。特に現状の道路の交通渋滞と公共交通機関の質に関しては壊滅的です。
ただ、マニラでポジティブに評価できる点として、今回のランキングでは評価項目には挙げられていませんが、英語がシンガポールに次いで普及していること、また、BGC(Bonifacio Global City) のような広域再開発計画地域があり、その中ではかなり高い治安と快適な生活が維持されています。
今回のランキングを眺めて、個人的には、東京の低評価と上海、ホーチミン、ハノイの高評価という想定外の評価と、それ以外の東南アジアの年についてはほぼ、想定していた通りであったという、大きく分けて2つの面がありました。
現状では、日本人の移住先、デシタルノマド先には、クアラルンプールもしくはペナンが最もおすすめで、その次がバンコクという考えは変わらないのですが、今回高得点を得たベトナムの2都市が木になる存在として台頭してきました。今後は注目していきたい都市ですね。
それでは、最後までお付き合いいただき、本当に有難うございました。さようなら。