「BMI」と言ってみなさんが思い起こすのは、マスボディインデックス(Mass Body Index)だと思うのですが、ここでのお話は「Brain Machine Interface」についてです。
テスラやスペースXの創業者として著名なアメリカの実業家、イーロン・マスクと彼が創業した「ニューラリンク(Newralink)」という企業が、一緒にある興味深いプレゼンテーションを2019年7月17日に行いました。プレゼンテーションの内容はニューラリンクの研究成果(脳とコンピューターを繋ぐ糸(ごく細いケーブル)等)の発表と今後のニューロリンクの活動の為のリクルートメント(求人活動)でした。
人間の脳と機械(その多くの場合はコンピュータ)を繋ぐ試みは、現在最先端の研究として研究施設の中でのお話です。しかし人間以外の動物と機械を繋ぐ試みはすでに実用レベルに到達していると言ったら、みなさんどう思われますか。
実は、アメリカでは昆虫(あえて明言しませんがGから始まる昆虫です。)をブルートゥースでスマートフォンと接続して、リモコンで操る為の工作キット(昆虫は含まれていないようです。(笑))が市販されているようです。
「BACKYARD BRAINS」という企業が行っているのですが、昆虫にキットを組み込む(外科手術行う)方法を説明した動画がありましたので、度胸のある方は見てみてください。動画の最後には、実際にリモコン(動画ではスマートフォンではない。)で昆虫を操作しているところが示されています。
ここで、ぼくがみなさんにお伝えしたいことは、BMIなどの技術を活用して人間の脳とコンピュータと繋げる(、または一歩進んで脳の一部もしくは全部をコンピュータに置き換える)試みは、今や夢やSFの中の話だけではなく、現実の話としてすでに起こり始めているということです。
みなさんは「サピエンス全史」という本をご存知でしょうか。ぼくは今ちょうど読んでいる途中なのですが、その中で著者のユヴァル・ノア・ハラリは人類(ホモ・サピエンス)は3つの革命(認知革命、農業革命、科学革命)を得て他の種を超えた存在としての地位を確立し、最終的にはその地位さえも超えた「超人類」に進化していくと言っています。ぼくは、BMIは人類が超人類への進化を促すための引き金になりうる方法の一つではないかと思います。
コンピュータが一般化する前は個人がコンピュータを所有することは夢物語のように言われていました。その後、コンピュータはご存知のように普及し個人所有があたりまえになりました。スマートフォンが普及する前は、個人がコンピュータを常に気軽に携帯することは同じく、夢物語のように言われていました。ところが結果はみなさんがご存知の通りです。
現在はウエラブルコンピュータの実用化の時代に差し掛かっていると言われています。その流れはすぐにVR、ARそしてBMIの技術によりインプラント型のコンピュータ(超小型のコンピュータをインプラントするか、もしくはコンピュータは外部にあり、それと常に接続できる通信機器をインプラントする)にとって替わられることでしょう。近い将来において、人々は当然のようにコンピュータに直接つながりデータの入出力をおこない、事故や老化によって劣化した脳の機能をコンピュータによって補うようになるのでしょう。それはあたかも、現在の我々が当たり前のように、スマートフォンを使うように。
また、BMIの発展は、人間がコンピュータに近づく動きを加速させれだけでなく、コンピュータが人間に近づく動きも加速させるように思います。コンピュータが人間に近づくことは取りも直さず、人口知能の出現を意味するのではないでしょうか。人間の脳では電気的な信号のやり取りを複雑にかつ膨大な量を伴って行われていると言われています。従って、今後脳の機能を代替する入れ物(人口脳)を人工的に(電子工学的もしくは生物学的に)作成し、BMIの技術によって、脳と人口脳を接続することができれば、脳内の電気信号を人口脳の移したり、コピーして移設することができるようになるでしょう。つまり意識はあり、自分は人間だと思っているのですが、その実態は人口脳に入った電気信号の固まりにしか過ぎないといったものです。果たして、これを人間と呼ぶことは合理的なのでしょうか。ある意味、人工知能の一種と言ってもおかしくないような気がします。
要は、人間とは何か、意識とは何かといった禅問答のようではあるが、本質の定義に関わる問題だと思うのです。
人工知能の危険性を世間に警告している「イーロン・マスク」です。しかしその彼が押し進めているBMIの技術が、ある意味別の形の人工知能を生み出す可能性を秘めているのは、いかにも皮肉な感じがします。
今から7万年前に起こった認知革命以降、人類はいくつかの「革命」を経験しある意味進化してきましたが、ユヴァル・ノア・ハラリは著書「サピエンス全史」の中でこれらの「進化」の速度が、それまでの地球上の生物の進化の速度よりも圧倒的に速いため、周りの環境がその変化に適応できず、今日のいろいろな問題(環境問題等)を引き起こしていると述べています。今後の我々の「進化」はさらに速くなっていくと思われます。周りの環境との調和、両立がますます大切になってきます。
まとめいかがでしたでしょうか。このような科学の進歩に対して我々個々人はいかにも無力で取るに足りない存在の様に思いがちです。確かにそれは物事のある一面において正しい考え方かもしれません。一方、このような「進歩」を起こしているのは我々と同じ人間であるということも、まぎれもない事実です。従って今我々に求められるのは、現在起こっていることに興味を持って向き合い、物事の本当のあるべき姿を理解しようと真摯に勤め、個々の事例に関して意見を持ち、必要であるならば声を大にして発言し、行動するということではないでしょうか。
Motoyuki Michiba
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