今日は少し趣向を変えて、海外生活中の方・これから始める方に、是非おすすめしたい小説をご紹介します。それは・・・
西加奈子さんの『サラバ!』。
直木賞受賞作なのでご存知の方も多いと思います。
以前、日本で読んだ時は、「面白かったなー」くらいの感想だったのですが、ブラジルで暮らし始めてからは大切な本へと変わりました。
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『サラバ!」は、父親の海外赴任のため、幼少期をイラン・エジプトで過ごした主人公の、アイデンティティの揺らぎや人生観・家族との関わりなどを描いた作品で、全体としても興味深く面白いのですが、
私が特に頻繁に思い出すのは、
主人公がエジプトで出会った親友ヤコブとのストーリーです。
経済的に恵まれず、宗教的マイノリティであるが故に時に差別を受けながらも、凛として逞しく家族を守りながら生きている大人びたヤコブ。
主人公は、駐在員家族として甘く守られた自分の境遇を後ろめたく感じながらも、言葉を超えて友情を育んで行きます。
そして、そんな二人の合言葉が「サラバ!」。この本のタイトルです。
なんの意味もなく、ただ言葉の響きが面白いという理由で、二人が使い出した言葉。だけれど、言葉が通じない二人のたくさんの想いを乗せた特別な言葉です。
「一緒にいられて嬉しい」
「明日もまた会おう」
「次会えるまで無事で」・・
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海外で生活していてブラジル人の友人ができても、私はポルトガル語が少ししか話せないので、全てを言葉で伝え合うことはできません。
でも、一緒にたくさんの時間を共にして、身振りや行動で気持ちを伝え合っていると、目線や微笑みで相手が考えていることが急に分かる時があって、「ああもしかしたら今、完全に分かり合えているのかもしれない」と感じられる瞬間があります。
全くの勘違いなのかもしれないけれど、その喜びは、言葉を尽くして分かり合えたときとは全く違う、とても原始的で子供のような喜びです。
そんなとき、「サラバ!」のヤコブのストーリーが心にストンと落ちて来ます。
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人種や言語、環境や文化が異なっても、言葉を超えて心に触れられる瞬間があることを、30歳を過ぎて初めて知りました。
私は、元々コミュニケーションに対して苦手意識が強く、「こんなことを言ったら嫌われるかも」「気の利いたことが言えなくて恥ずかしい」と考えすぎ対人関係がうまく作れないのですが、
ブラジルに来て「言葉は全く大事じゃない」と分かってから、気が楽になり、以前よりは気持ちを伝えることができるようになりました。
多くの人にとっては普通の事なのでしょうし、自分も「もっと早く若い頃にこんな経験をしたかったな」と思ったりもしますが、でもきっと何事も遅すぎるということはないはず。
これからのブラジル生活や友人との日々、新しい出会いが楽しみです。